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租税条約とは?海外取引で検討漏れが命取りになる理由|モデル条約と国内法との優先関係【税理士が解説】

近年、多くの会社で海外進出を行ったり、海外の会社とお金のやり取りをする国際取引が活発になってきています。一方で、その際に非常に検討が漏れやすいのが租税条約になります。

日常の取引の大半を占める国内取引では、もちろん日本国内の税法の検討だけを行えばよいのですが、取引当事者に海外が含まれる場合には、日本国内の税法の検討だけではなく、租税条約や現地税法の検討も必須になってきます。

ただでさえ、難解な日本国内税法だけを理解するだけでもいっぱいいっぱいであるため、租税条約や現地税法まで思考が回らないことが多く、その結果、納税漏れや税務調査での指摘を受けているケースが近年非常に多くなってきています。

租税条約に関する届出書の記載例や作成等の実務処理については、ネットでも記事が多く出回っているかと思います。
一方で、実務上の手続きだけ把握しているだけでは、新規取引が発生した際に応用がきかずに、場当たり式の対応になってしまいがちです。

そこで本記事では、租税条約を根本から理解、応用するために必要なモノの考え方や背景を、重要なエッセンスに絞って解説していきます。

なお、本記事は2026年4月1日現在の関係諸法令に基づき作成しております。

目次

租税条約とは?国と国とで結ぶ「課税権の配分」の取り決め

租税条約とは、国と国との間で締結される税金に関する取り決めです。

なお、日本と全ての世界各国との間に租税条約が締結されているわけではありません。

日本では、2026年4月1日時点で、157ヶ国・地域と90の租税条約等を結んでいます。

各国と締結している租税条約の内容は、以下の財務省のHPから閲覧することができます。

租税条約は、ある所得について「どちらの国で課税するか」といった課税する権利の配分や、国際的な二重課税の排除などを目的としています。また、近年では、国境を跨ぐ脱税や租税回避の防止のため、各国の税務当局間での情報交換や協力規定も重要な目的となってきています。

モデル租税条約とは|OECDモデルと国連モデルの違い

各国間で租税条約を締結する際に、交渉のスタート(土台)として活用できるように国連やOECDがモデル租税条約というものを用意しています。

アメリカなどの一部の国では、国独自のモデル租税条約を作成していることもありますが、本記事では解説を省略します。

国連やOECDのモデル租税条約は、それぞれ以下のような特徴を持っています。

国連モデル租税条約OECDモデル租税条約
正式名称先進国と開発途上国との間の国連モデル二重課税条約(United Nations Model Double Taxation Convention Between Developed and Developing Countries)所得と財産に関するモデル租税条約(Model Double Taxation Convention on Income and on Capital)
条約のイメージ開発途上国有利先進国有利
課税権の範囲源泉地国の課税権の範囲が広い源泉地国の課税権の範囲が狭い
条文構成(2017年版)第1条 人的範囲
第2条 対象税目
第3条 一般的定義
第4条 居住者
第5条 恒久的施設
第6条 不動産所得
第7条 事業所得
第8条 国際海運及び航空運輸
第9条 特殊関連企業
第10条 配当
第11条 利子
第12条 使用料
第12A条 技術上の役務への対価
第13条 譲渡収益
第14条 自由職業所得
第15条 給与所得
第16条 役員及び上級管理職員報酬
第17条 芸能人及び運動家
第18条 退職年金及び社会保障給付
第1条 人的範囲
第2条 対象税目
第3条 一般的定義
第4条 居住者
第5条 恒久的施設
第6条 不動産所得
第7条 事業所得
第8条 国際海運及び航空運輸
第9条 特殊関連企業
第10条 配当
第11条 利子
第12条 使用料
第13条 譲渡収益
第14条 [削除]
第15条 給与所得
第16条 役員報酬
第17条 芸能人及び運動家
第18条 退職年金
第19条 政府職員
第20条 学生
第21条 その他所得
第22条 財産

両モデルとも、条文構成自体はほぼ同じですが、規定されている内容が異なる条文が多くあります。

国連モデル租税条約|開発途上国(源泉地国)で課税されやすい設計

国連は加盟国に開発途上国が多く存在している背景もあり、開発途上国に有利なかたちでモデルが作成されています。

具体的には、先進国が投資先の開発途上国で税金を納めてくれるように、OECDモデルと比較して、源泉地国(開発途上国)側でなるべく課税されるようなモデル設計になっています。

例えば、建設工事等に関して、OECDモデル租税条約では12か月を超える期間存続しなければ恒久的施設(PE)に該当しませんが、国連モデル条約ではその半分の6か月間でPEに該当してしまい、建設工事等の現場がある投資先国で課税されてしまいます。

【関連記事の案内・要リンク先確認】海外に拠点や工事現場を持つ場合のPE認定リスクについては、海外進出のPE課税とはで詳しく解説しています。

OECDモデル租税条約|先進国に有利で源泉地国の課税範囲は狭い

一方で、OECDモデルについては、主要な開発途上国である中国やインドが加盟していないといった背景もあり、先進国に有利なモデルとなっています。

国連モデルと比較して、源泉地国の課税範囲が狭められており、投資先の国ではあまり課税されないようなモデル設計になっています。

どちらのモデルがベースになるか|相手国から見当をつける

開発途上国との間で租税条約の締結交渉を行う際には、国連モデル租税条約がベースとなり議論が行われることが多いと思います。一方で、先進国間ではOECDモデル租税条約がベースとなることが多いです。

このイメージを持っておくだけでも、各国との間の租税条約を理解しやすくなると思います。

モデルはあくまで議論のベースとして使用されるため、租税条約によってはモデルと異なる条文内容になることもあります。

OECDコメンタリーとは|条文とセットで必ず参照する

なお、OECDモデル租税条約には、コメンタリーというものが用意されています。

これはOECDモデル租税条約の各条文の解釈を示したものであり、法的な拘束力はないですが、実務上は多数の加盟国の裁判判例において当該コメンタリーが引用されたりしており、条文解釈上、非常に重要な役割を持っています。

きし

租税条約の検討を行う際は条文だけではなく、コメンタリーも必ず参照したいところです。

日本は国内税法よりも租税条約が優先|国内法だけの検討では不十分

租税条約の条文によっては、国内の税法の規定と、租税条約の条文の規定が定める内容が衝突してしまうケースがあります。

アメリカなど、一部の国では国内の税法と条約を同列に扱うこともありますが、日本は国内の税法よりも条約を優先する立場をとっています。

そのため、海外との間で何かしらの取引があった際には、日本国内の税法の検討だけでは不十分であり、相手先国との間の租税条約の取り扱いまで調べないと、思わぬ課税リスクが生じてしまうリスクがあります。

なぜ租税条約の検討が実務上重要か|「過大申告にしかならない」は誤り

海外取引において租税条約の検討が後回しにされやすい背景には、ひとつの誤解があります。

「租税条約は課税を軽くする方向にしか働かないのだから、最悪でも日本国内の税法だけを検討しておけば足りる」という理解です。実務書によく登場するプリザベーションクローズという原則が、その出発点になっています。

しかし、日本においてはこの理解のまま進めると、過少申告となるリスクがあります。

プリザベーションクローズとは|「租税条約は国内税法以上の課税を行わない」原則

租税条約の解説の実務書や資料などで、よくプリザベーションクローズという原則の説明が記載されています。

プリザベーションクローズは、「租税条約は国内の税法以上の課税を行わない」原則のことです。

言い換えれば、租税条約は課税を減らしたり、免除する方向にしか機能しないということです。そうすると、海外との取引があっても、最悪日本国内の税法だけ検討していれば、租税条約の特典を使用できずに日本側において過大申告となることあっても、過少申告になることはない、と考えてしまいがちです。

日本ではプリザベーションクローズが実質的に機能していない

しかし、これは誤りです。日本は前述のとおり基本的に国内税法よりも租税条約優先の原則をとっており、法人税法139条1項や所得税法162条などの日本国内税法の個別規定でも租税条約を優先する旨が定められています。

したがって、租税条約で日本国内の税法よりも重い税負担になる結果となる規定が置かれていれば、そちらの規定を優先して課税処理を行います。このため、実質的には日本ではプリザベーションクローズは適用されていないという人もいます。

したがって、海外との取引が発生した際には、日本国内の税法の検討のみならず、必ず租税条約の取り扱いも検討しないと、日本において過少申告となるリスクがあります。

検討漏れの典型例|インド法人へのソフトウェア開発委託料

具体例として、インドに対するソフトウェア開発委託料が租税条約の検討漏れの題材としてよく挙げられることがあります。以下の弊所のブログでも解説しておりますので、よろしければご覧ください。

外国法人への支払い時の源泉徴収ガイド|漏れやすいケースと税務調査対策

租税条約が原則どおり適用されない国もある|ベトナムの外国契約者税など

特に開発途上国に多いのが、租税条約よりも現地の国内税法を優先し、租税条約に基づけば本来課税してはいけない所得に対して課税されていることがあります。ベトナムの外国契約者税などが有名です。

本来、そのような課税が現地で行われている場合には、租税条約の適用手続きを経れば税金が還付されるはずなのですが、租税条約の適用手続きの審査を長期化させたり、還付請求を行うと別の論点で執拗な税務調査を行うといった対抗策を講じてくる国もあり、実質的には泣き寝入り状態で課税を受け入れているケースも多いです。

このような現地の実務上の温度感は、机上で税法や租税条約をリサーチしているだけでは分からない部分となります。そのため、現地の税務専門家からも実務上の取り扱いについてアドバイスを受けることが重要になります。

【関連記事の案内・要リンク先確認】アメリカ・中国・ベトナム・タイなど、国ごとの源泉徴収の取り扱いについては、海外子会社からの投資回収と税務対策|アメリカ・中国・ベトナム・タイの源泉徴収ガイドで整理しています。

まとめ|海外取引を始める前に、租税条約の確認を

海外取引における租税条約の検討の重要性や、実務で直面するリアルな課題について解説してきました。

国際税務は国内の税務処理と比較して非常に複雑であり、「ネットで調べた知識」や「条約上はこう書かれているから大丈夫だろう」という自己判断は非常に危険です。

新規取引が発生した際の場当たり的な対応では、いずれ大きな税務リスクを抱えることになります。

そのため、海外との新規取引を開始する際や、新たな契約スキームを検討する段階では、租税条約や国際税務に精通した日本及び現地の税務専門家へ事前に問い合わせ・相談を行うことを強くおすすめします。

条約の根本的な理解はもちろん、各国のリアルな税務事情や実務上の温度感に精通した専門家のアドバイスを仰ぐことが、結果的に無駄な税金や税務調査でのトラブルを防ぎ、海外ビジネスを安全に成功へと導くための最良の選択となります。

お気軽にお問い合わせください

きし

租税条約は、取引が始まってから調べ始めると間に合わないことが多い分野です。契約を交わす前にご相談いただけると、打てる手がまったく変わってきます。

マロニエ会計事務所では、「海外取引における租税条約の適用判定」に関するご相談を積極的にお受けしております。貴社の状況に応じ、以下のような支援が可能です。

  • 新規の海外取引について、日本国内税法と租税条約の双方からの課税関係の検討(源泉徴収の要否・限度税率の判定など)
  • 租税条約に関する届出書、特典条項に関する付表などの作成・提出のサポート
  • OECD・国連モデル租税条約およびコメンタリーを踏まえた条文解釈の検討、恒久的施設(PE)認定リスクの評価
  • 契約スキームや契約書の記載内容が、相手国での課税関係に与える影響の事前確認
  • 現地で租税条約どおりに適用されなかった場合の対応方針の整理、現地税務専門家との連携

条文上の結論だけでなく、その条約が相手国で実際にどう運用されているかという実務上の温度感まで踏まえたうえで、判断材料をご提示します。

たとえば、次のようなご相談から始めていただけます。

  • 「海外の会社にこの費用を支払う予定だが、源泉徴収が必要かどうか判断できない」
  • 「相手国から租税条約の届出書を求められたが、何をどう提出すればよいのか分からない」
  • 「現地で源泉徴収されてしまったが、租税条約上は課税されないはずではないのか」
  • 「これから始める新しい契約スキームに、税務上のリスクが潜んでいないか確認したい

取引が動き出してからでは、選べる選択肢が限られてしまうことも少なくありません。まずは30分の無料相談で、貴社の取引の全体像をお聞かせください。単発のスポット相談にも対応しております。

マロニエ会計事務所は、Big4・大手製造業出身の公認会計士・税理士が代表を務め、TOEIC990点の語学力を活かした国際税務を得意領域としています。

参考法令・資料

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