海外取引の源泉徴収ミス6事例|外国法人・非居住者への支払いの落とし穴

以前公開した「国際源泉所得税の誤り事例|海外駐在員・ロイヤルティで多いミスと対策」は、おかげさまで多くの反響をいただきました。海外取引にかかる源泉所得税のご相談も、年々増えています。

そこで今回はその続編として、実際にあったミス事例を集め、どこに落とし穴があるのかを具体的に解説していきます。「まさかこんなところで?」という事例ばかりですので、海外との取引がある会社のご担当者は、ぜひ自社に当てはめながら読んでみてください。

源泉徴収の基本ルールや租税条約の適用、漏れやすいケースの全体像は、外国法人への支払い時の源泉徴収ガイドにまとめています。

目次

源泉徴収が漏れるとどうなる?不納付加算税・延滞税とグロスアップ

本題に入る前に、源泉徴収が漏れてしまった場合の影響を確認しておきましょう。ここを理解しておくと、なぜ事前の検討がそれほど大切なのかが腹落ちします。

源泉所得税は、支払を受ける側(非居住者や外国法人)の税金であるにもかかわらず、支払う側(源泉徴収義務者)が納付する義務を負っています。

ですから、源泉徴収が漏れていた場合、税務調査で指摘されると、まず支払った会社自身が本税を納めなければなりません。そのうえで、次のペナルティが上乗せされます。

  • 不納付加算税:原則として納付すべき税額の10%(税務調査の通知を受ける前に自主的に納付した場合は5%に軽減されます)。
  • 延滞税:法定納期限の翌日から実際に納付する日までの日数に応じて課されます。納期限から2か月を超えると税率が上がり、近年は年8%台に達します。

さらに厄介なのが求償(相手方からの回収)の問題です。
本来は非居住者等の税金なので、支払者は後から相手方に「源泉税相当額を返してほしい」と請求できるのが建前ですが、相手が海外にいると、実務上は回収が非常に困難です。

そして、会社が肩代わりして負担した源泉税額は、税務上「追加の支払い」とみなされ、その部分にもさらに源泉徴収が必要になる(グロスアップ)ため、負担が雪だるま式に膨らんでいきます。

なお、実際に源泉徴収が漏れてしまった場合の具体的な対応(納付の手順や、租税条約による還付など)は、前回の記事で詳しく解説していますので、そちらもあわせてご覧ください。

それでは、実際のミス事例を見ていきましょう。

実際にあった海外取引の源泉徴収ミス事例【外国法人・非居住者への支払い】

ここからは、実際にあった6つの事例を見ていきます。

事務所や社宅の不動産、海外へのソフトウェア開発委託、海外勤務の役員報酬、グループ会社間の利息の相殺まで、取引の種類はさまざまです。ただ、どの事例も原因は同じでした。支払う前にひと呼吸おいて確認していれば、防げたものばかりなのです。「うちにも同じ落とし穴はないか」と探しながら読んでみてください。

事例1:非居住者の家主への賃料で源泉徴収が漏れていた

自社の事務所として借りていた物件について、家主が契約期間の途中から海外へ移住し、非居住者になっていたというケースです。会社はそれに気づかず賃料を払い続け、後日の税務調査で源泉徴収漏れを指摘されました。

なぜ気づけなかったのか。家主からは移住の連絡が一切なく、家賃の振込先も日本国内の銀行口座のままだったからです。振込先が国内銀行だと、相手が海外に住んでいるとはなかなか想像がつきません。家主からのアナウンスがない以上、これは対策のしようがない国際源泉の難しさを象徴するような事例です。

【非居住者から不動産を借りたときの源泉徴収ルール】

非居住者や外国法人から日本国内の不動産を借り、日本国内で賃借料を支払う場合、支払者は賃料の20.42%を源泉徴収して、翌月10日までに納付しなければなりません。これは支払者が法人か個人かを問わず適用されます。

ただし、例外があります。個人が、自己またはその親族の居住用に借りている場合は、源泉徴収は不要です。逆に言えば、会社が事務所として借りている今回のケースは、この例外に当たらず、源泉徴収が必要だったわけです。

対策として完璧なものは難しいのですが、賃貸借契約書に「居住地(住所)に変更が生じた場合は速やかに通知する」旨の条項を入れておく、定期的に家主の居住状況を確認する、といった備えは有効です。

きし

個人オーナーの物件を長く借りている場合は、頭の片隅に置いておきたい論点です。

事例2:非居住者から社宅用マンションを購入し、源泉徴収漏れで追徴

会社が社員向けの社宅として、都内のマンションを購入したケースです。ところが売主が非居住者であり、購入時に源泉徴収をしていなかったため、税務調査で指摘されました。譲渡金額が1億円程度と高額だったため、追徴課税もかなりの金額になってしまいました。

【非居住者から不動産を買ったときの源泉徴収ルール】

非居住者や外国法人から日本国内の土地・建物等を購入した場合、買主は代金の10.21%を源泉徴収して納付する義務があります。

こちらにも例外があります。譲渡対価が1億円以下であり、かつ買主が個人で、自己またはその親族の居住用に取得する場合は源泉徴収が不要です。

しかし今回は、買主が法人であり、この例外には当たらず、源泉徴収が必要でした。

見落としを防ぐカギは、取引の相手方の住所です。契約書に記載された売主の住所が海外だったり、生活の拠点が海外にありそうだと感じたら、必ず相手方の居住状況を確認することが重要です。

また、これは税務署側の視点ですが、課税庁は決算書に添付される「固定資産の内訳書」からも情報を把握できます。会社が新たに取得した不動産は、こうした書類を通じて当局の目に触れる、ということも知っておくとよいでしょう。

特に不動産業者やデベロッパーは土地等を購入する機会が多いので要注意です。

最近は都内の物件オーナーに外国人(非居住者)が増えており、「まさか売主が非居住者だったとは」という事態は、今後ますます起こりやすくなると考えられます。

事例3:海外への役務報酬、租税条約を適用すれば源泉徴収は不要だった

ここまでは「漏れ」の事例でしたが、今度は逆に、源泉所得税を多く納め過ぎていたという事例です。

海外のシステム開発会社に依頼し、日本国内でシステム導入作業を行ってもらった報酬について、会社は源泉徴収をして納付していました。ところが、後から検討したところ、租税条約を適用すれば、そもそも源泉徴収は不要だったのです。

ここで少し専門的な余談ですが、日本の所得税法では、似ているようで扱いの異なる2つの概念があります。

  • 人的役務の提供に対する対価:非居住者“本人”が役務を提供する場合の対価。国内法では役務提供地が日本かどうかで源泉の要否を判定しますが、租税条約では「自由職業者」として別に規定されていることが多く、PE(恒久的施設)の有無や滞在日数(183日ルール)で源泉地を判定するのが一般的です。
  • 人的役務の提供事業の対価:非居住者“本人”ではなく、他人(従業員など)に役務を提供させる事業の対価。会社組織で役務を提供するイメージです。

今回の海外システム開発会社への報酬は、後者の「人的役務の提供事業の対価」に当たります。日本の所得税法では、この対価は日本国内で役務提供が行われていれば源泉徴収の対象と定められており、会社はこれに従って源泉徴収していました。国内法だけを見れば、この処理は間違いではありません。

ところが、その開発会社が所在する国と日本との租税条約を確認すると、事業所得については「PEがなければ課税なし」とされていました。

つまり、1か月程度の指導員の出張のみであり、日本国内に開発会社のPEがないケースであったため、租税条約を適用すれば源泉徴収は不要だったのです。租税条約は国内法に優先しますから、本来は源泉徴収せずに支払ってよかった、ということになります。

租税条約を確認することの重要性がよく分かる事例です。過大に源泉徴収してしまった分は、「租税条約に関する届出書」とあわせて所定の還付手続きを行うことで取り戻せる可能性がありますが、そもそも支払前に条約を確認していれば、余計な手間もかからず、相手方との関係もスムーズだったはずです。

租税条約とPEの関係はPE課税リスクと契約書・証拠資料の整え方で、過大に納めてしまった外国源泉税の扱いは支払った外国源泉税を取り戻す外国税額控除の仕組みで解説しています。

事例4:インド法人へのソフトウェア開発委託は源泉徴収が必要

事例3と対になるのが、このインド法人へのソフトウェア開発委託の事例です。前回の記事でも触れた、国際源泉の有名論点です。

インド法人に、インド国内でソフトウェア開発を委託していたケースで、源泉徴収を漏らしてしまい、税務調査で指摘されました。

このソフトウェア開発委託料も、事例3と同じく「人的役務の提供事業の対価」に当たります。

原則論でいけば、開発が日本国内で行われていれば源泉徴収が必要、インド(国外)で行われていれば源泉徴収は不要、となるはずです。

きし

今回は開発がインドで行われているので、一見すると源泉不要に思えます。

ところが、日本とインドの租税条約には、他の国との条約ではあまり見かけない特殊な規定があります。
日印租税条約では、「技術的性質の役務またはコンサルタントの役務(技術上の役務に対する料金)」については、その支払者が居住する国で所得が生じたものとする、という考え方(債務者主義)が採られているのです。

つまり、開発が物理的にインドで行われていても、料金を支払ったのが日本の会社である以上、その所得の源泉地は日本とされ、日本で源泉徴収が必要になります。この点を見落として源泉徴収を漏らし、調査で指摘されたわけです。

なお、日印租税条約による限度税率は10%ですので、支払前に「租税条約に関する届出書」を提出していれば10%で済みますが、届出がなければ国内法どおり20.42%で源泉徴収することになります。

この規定で特に注意したいのは、「技術的性質の役務・コンサルタントの役務」が実務上は非常に幅広く解釈されている点です。ソフトウェア開発に限らず、技術支援、士業などの各種コンサルティング、現地レポートの作成など、多くの支払いが対象になり得ます。

インド法人へ支払いを行う際は、「技術役務に当たらないか」を必ず確認するようにしてください。

事例3と事例4を並べて見ると、「国ごとに租税条約を必ず確認する」ことがいかに重要かがよく分かります。

「源泉徴収に係る国内法と租税条約の検討方法については「外国法人への支払い時の源泉徴収ガイド|漏れやすいケースと税務調査対策」をご確認ください」

事例5:海外勤務の役員報酬で源泉徴収が過少だった

最後は、国外勤務している役員への給与の事例です。海外で勤務している役員に支払った給与について、「国外源泉所得だから源泉徴収は不要」と判断してしまい、源泉徴収が過少となりました。

【役員報酬の源泉徴収は、勤務地の常識が通用しない】

一般の従業員(使用人)の給与であれば、勤務地が国内か国外かで源泉徴収の要否が決まります。しかし、役員報酬は別扱いです。

日本法人の役員は、たとえ海外で勤務していても、その役員報酬は「国内源泉所得」となり、源泉徴収が必要になります(非居住者である役員の場合、税率は20.42%)。「海外で働いているのだから国外源泉」という感覚は、役員に関しては通用しないのです。

ただし例外もあります。その人が使用人としての立場(支店長、工場長など)で海外に常時勤務している場合には、実質的には役員ではなく使用人として扱われ、国外源泉所得として源泉徴収が不要になることがあります。もっとも、これは事実認定の問題になるため、安易に「使用人兼務だから不要」と判断するのはリスクの高い処理です。

国外勤務の役員報酬は、勤務の実態と税務処理が一致せず、非常に混乱しやすい部分で、誤りが本当に多く見られます。

今回のような「源泉徴収を丸ごと失念」だけでなく、源泉徴収はしていたものの、国内勤務の居住者役員と同じ税率で計算してしまう(非居住者なら20.42%で計算すべきところ)というミスもよくあります。

役員報酬については、思い込みで判断せず、必ず処理ルールに立ち返って判断することが重要です。税務署も、決算書に添付される役員報酬の内訳書の住所欄を見て、海外居住者がいれば目を光らせてきます。「海外の住所の役員がいるのに源泉が少ない」という状態は、当局にとって分かりやすいチェックポイントなのです。

「海外勤務者・駐在員の給与でよく起きる源泉の誤りは、海外勤務の駐在員給与の源泉で起きやすい誤りでも解説しています。」

事例6:海外親会社への利息を相殺したら源泉徴収が漏れた

海外の親会社から資金を借り入れていた日本子会社が、その利息を、親会社に対する売掛金と相殺したケースです。会社側は、相殺の際に源泉徴収が必要だという認識がなく、源泉徴収漏れとなりました。

【貸付金利子の源泉徴収ルールと「支払い」の落とし穴】

貸付金の利子については、日本の国内法では、その借入金を使用する場所(使用地)で源泉地を判定します。今回のように日本子会社が国内の事業で使う資金であれば、利子は国内源泉所得となり、支払時に源泉徴収(原則20.42%、条約により軽減される場合あり)が必要です。

租税条約も同様のルール(債務者主義)を採用していることが多いため、条約を確認しても結論が変わることは比較的少ない論点です。

やっかいなのは、利息の「支払い」の定義です。源泉徴収が必要となる「支払い」には、現実にお金を支払う場合だけでなく、その利息を新たな借入れの元本に組み入れたり、債権と相殺したりする場合も含まれます。要するに、利息の支払債務が消滅する行為はすべて「支払い」として扱われ、源泉徴収の対象になるのです。

本ケースでは、「相殺は支払いに当たる」という認識がなかったために、源泉徴収が漏れてしまいました。日本国内のグループ会社間では、未払利息を関係会社への債権とネッティング(相殺)することもよく行われますが、外国法人が絡む場合には、相殺のタイミングで源泉徴収が必要になる点に注意が必要です。

まとめ|国際源泉は「思い込み」が一番危ない

6つの事例を振り返ると、共通するのは「思い込みや認識不足」が原因になっている点です。

  • 相手方が実は非居住者だった(事例1・2)
  • 租税条約を確認していなかった/確認すべきと気づかなかった(事例3・4)
  • 「支払い」の定義を狭く捉えていた(事例5)
  • 役員報酬のルールを通常の従業員の場合と同じルールであると思い込んでしまった(事例6)

いずれも、支払いの前にひと呼吸おいて、「相手は居住者か」「租税条約はどうなっているか」「これは税務上の“支払い”に当たるか」などを確認するだけで防げたものばかりです。

海外との取引は、国内取引の感覚のまま進めてしまうと、思わぬところで源泉徴収漏れ(あるいは納め過ぎ)が生じます。

とはいえ、これらをすべて社内で正確に判断するのは簡単ではありません。

きし

国ごとに異なる租税条約、特殊な規定、そして「支払い」の定義まで、国際源泉は、専門家でも慎重に検討する分野です。

マロニエ会計事務所は、Big4・大手製造業出身の公認会計士・税理士が代表を務め、TOEIC990点の語学力を活かした国際税務を得意領域としています。

本記事で取り上げたような論点について、顧問契約スタイルでの継続的なご相談はもちろん、「この支払い、源泉徴収は必要ですか?」という個別のスポット相談も承っています。新しい国の取引先への支払いが決まったときこそ、支払う前にぜひ一度ご相談ください。

なお、海外への支払いでは、所得税の源泉徴収とは別に消費税の論点も生じます。海外サービス利用時のリバースチャージ(消費税)も非常に誤りやすい分野であるので、あわせて押さえておくと安心です。

お気軽にお問い合わせください

マロニエ会計事務所では、「海外取引にかかる源泉所得税」に関するご相談を積極的にお受けしております。貴社の状況に応じ、以下のような支援が可能です。

  • 非居住者・外国法人への支払い(賃料・不動産購入代金・役務報酬・利子・使用料など)にかかる源泉徴収の要否判定
  • 租税条約の確認と「租税条約に関する届出書」など軽減・免除手続きのサポート
  • 日印租税条約の技術役務料など、国ごとの特殊な規定を踏まえた事前チェック
  • 海外勤務の役員・駐在員の給与、非居住者役員の報酬にかかる源泉徴収の適正化
  • 過大に納付した源泉税の還付手続き、源泉徴収漏れが判明した場合の是正対応

「この支払い、源泉徴収は必要だろうか」「相手が非居住者かどうか判断がつかない」「新しい国の取引先への支払いが決まったが、処理に不安がある」。こうした段階でのご相談も歓迎しています。支払いを実行してしまう前に一度ご相談いただければ、余計なペナルティも、相手方との交渉の手間も未然に防げます。

マロニエ会計事務所は、Big4・大手製造業出身の公認会計士・税理士が代表を務め、TOEIC990点の語学力を活かした国際税務を得意領域としています。

本記事で取り上げたような論点について、顧問契約スタイルでの継続的なご相談はもちろん、「この支払い、源泉徴収は必要ですか?」という個別のスポット相談も承っています。

きし

新しい国の取引先への支払いが決まったときこそ、支払う前にぜひ一度ご相談ください。

目次