
こんにちは。栃木・宇都宮のマロニエ会計事務所です。
不動産や株式などの資産を所有している会社は多いかと思います。
これらの資産は、基本的には取得した時の金額(=取得原価)で決算書に計上され続けます。
資産の時価は、毎日刻一刻と変化しています。もし、資産の時価が取得した金額を下回っている場合は、含み損が生じているかたちになります。
しかし、この含み損は、現在の日本の税法では基本的に税務上の損失として計上することはできません。
一方で、資産の譲渡や廃棄などを行えば、この含み損を実現させることができ、それが大きな節税効果をもたらすこともあります。
そこで今回は、含み損資産の概要やそれを活用した節税について解説していきます。
なお、本記事は法人が含み損資産を有していることを前提としています。
含み損資産とは?法人が知るべき基礎知識と税法の原則
日本の税法は、基本的に資産を時価評価することを認めていません。つまり、不動産や棚卸資産などの資産は、譲渡や廃棄するまでは取得した際の原価(=取得原価)で計上し続けなければなりません。
これを取得原価主義といったりします。
そのため、例えば1億円で購入した不動産が、地価の変動により時価が下落したとしても、その下落分は損失として計上することは認められません。
【具体例】注意すべき含み損資産の種類(不動産・株式・不良在庫)
実務上よく見受けられる含み損資産の代表例は以下の通りです。
バブル期購入の不動産など土地の含み損
バブルの時代に購入した土地は、現在の相場よりも非常に高い金額で取得している可能性があります。しかし、税法は取得原価主義のため、土地の時価が下落していたとしても含み損を経費計上することは出来ません。
株価下落した保有株式(売買目的有価証券以外)の含み損
株式は毎日相場変動があります。株価は上がるときもあれば下がるときもありますが、その株式が税法上の「売買目的有価証券」という区分に該当しない限りは、その時価の変動による損益を計上することができません。
需要が落ち込んだ不良在庫(商品・棚卸資産)の含み損
季節性のある商品在庫で、そのシーズンが経過してしまい、不良在庫として残っているような商品があるとします。
こちらも、実質的な価値はほぼゼロ円に近いものだと思いますが、在庫として持ち続けている限りは、基本的には含み損を経費計上することができません。
含み損を実現する2つの方法:資産譲渡と資産廃棄による節税
含み損資産は持ち続けている限り、実態としては損失が生じているにも関わらず、その損失は経費に計上することができません。
含み損を実現させる方法としては、「資産の譲渡」か「資産の廃棄」のいずれかが代表的な方法となります。以下でそれぞれの方法の内容と注意点を解説いたします。
①資産譲渡による含み損の実現と注意点(適正時価・グループ法人税制)
資産を譲渡すれば、資産の含み損を実現させることができます。
取得原価よりも低い譲渡金額で譲渡するかたちになると思いますが、取得原価が譲渡金額を上回る場合には、その差額は譲渡損失として、税務上の損失として計上することができます。
上場株式や優良な不動産についてはすぐに買い手が見つかり、譲渡をすることは容易かと思います。
一方で、市場性の低い不動産や不良在庫の商品については、なかなか買い手が見つからず、譲渡を行うことができないケースもあります。
注意点①:譲渡金額の設定に注意!
第三者間で譲渡を行う場合には基本的に問題にはなりませんが、同族会社や役員、その親族に資産を譲渡する際は譲渡金額の設定に注意が必要です。
資産を譲渡するには、税務上はその時の時価で譲渡しなければなりません。
譲渡金額が低ければ低いほど、譲渡損失の金額が大きくなり、節税になります。
そのため、譲渡金額を低くするモチベーションが働くことになりますが、税務上の時価よりも低い金額で譲渡してしまうと、寄附金課税などの税務リスクが発生します。

含み損資産を譲渡する際には、いくらでも良いというわけではなく、必ず税務上の時価で譲渡するようにしましょう。
注意点②:グループ法人税制に注意!
グループ法人税制が適用されるグループ会社間での資産の譲渡のうち一定のものは、譲渡損益調整資産として、含み損の実現が否認されることがあります。グループ会社間の譲渡の際には注意が必要です。
②資産廃棄(除却)による含み損の実現と注意点(廃棄エビデンスの保管)
資産を廃棄した場合にも、廃棄損として、資産の含み損を実現させることができます。
資産を廃棄した場合には、取得原価の金額がそのまま税務上の損失となります。
上場株式や不動産には馴染まない方法ですが、不良在庫、商品に対しては有効な含み損の実現方法です。
注意点:廃棄のエビデンスはしっかり残しておくこと!
廃棄の際には、可能な限り、廃棄物処理業者が廃棄資産を搬出する際の写真や、業者からの引き取り証、預かり証などのエビデンスを残しておきたいところです。
税務調査でも、廃棄のエビデンスが残っているかどうかはよく聞かれる項目です。

私自身の経理時代の経験ですが、固定資産や棚卸資産を廃棄する際は、必ず廃棄物処理業者の廃棄作業に立会い、写真の撮影と引き取り証の受領を行っていました。
含み損実現のメリット:法人税の節税効果と維持コスト削減
資産の含み損を実現させるメリットとしては、大きく以下の2つが挙げられます。
メリット1:税務上の損失計上による法人税節税効果
含み損がある資産を譲渡、廃棄すると、税務上の損失を作ることができます。
税務上の損失は利益と相殺することができますので、利益が大きく計上される期にあわせて、含み損資産を譲渡なり、廃棄すれば、節税効果を享受することができます
メリット2:固定資産税や保管料など資産維持コストの削減
資産は持っているだけでも色々なコストがかかります。例えば、不動産は毎年、固定資産税がかかります。
不良在庫については、倉庫の保管料やそれを管理するための人件費がかかります。
含み損の実現は節税効果ばかりに目がいきがちですが、このような資産の維持コストの削減にも寄与するのです。
【応用編】含み損資産を活用した高度な節税テクニック
前項までは含み損資産の基本的な取り扱いについて解説いたしました。
本項では、複雑なお話にはなりますが、含み損資産に着目した高度な税務テクニックを解説したいと思います。
テクニック1:非適格組織再編(合併・会社分割)を用いた含み損の実現
合併や会社分割の場合に適用される税制として、組織再編税制というものがあります。当該税制は、合併や会社分割に関して、「適格組織再編」か、「非適格組織再編」か、といった区分を行います。
合併を例にとると、「適格」合併の場合は、被合併法人の資産は、合併法人に税務上の帳簿価額で引き継がれます。 一方で、「非適格」合併の場合は、被合併法人の資産は、合併法人に時価で譲渡したものとして処理します。
一般的には、被合併法人の含み益資産の含み益に課税されることを防ぐために、「適格」合併となるように契約状況などを整備していきます。しかし、被合併法人が含み損資産を有している場合は、むしろ「非適格」合併となった方が含み損が実現し、節税効果をもたらす場合があります。
テクニック2:非上場株式の相続税対策としての含み損活用(株価評価引き下げと債務免除)
推定被相続人が、非上場株式を持っていたとします。相続が発生した際には、非上場株式の相続税法上の時価評価を行い、相続税が課税されます。
ここで、その非上場株式を発行している会社が、例えば以下のような多額の含み損を抱えている資産を有していたとします。
例:法人は土地を過去に3億円で取得したが、現在の相続税評価額は1億円。株価は純資産価額で評価するものとする。法人の形態は株式会社とする。また、法人は推定被相続人から役員借入金として2億円借り入れているものとする。
法人の純資産:
資産の部: | 取得原価 | 時価 | 負債の部: | 取得原価 | 時価 |
土地 | 3億円 | 1億円 | 役員借入金(推定被相続人) | 2億円 | 2億円 |
純資産の部: | 取得原価 | 時価 | |||
純資産 | 1億円 | △1億円 |
推定被相続人の相続財産:
財産種類 | 評価額 |
法人貸付金 | 2億円 |
非上場株式 | 0円 |
相続財産合計 | 2億円 |
上記のようなケースですと、この会社の株式の価値は、純資産の△1億円となります。
しかし、相続税法上の非上場株式の評価はマイナスになることはなく、この場合は、純資産が△1億円であっても、非上場株式の評価は0円となります。
つまり、本来は株価に△1億円の含み損が生じているのに、その△1億円は相続税の計算で使用することが認められないのです。
しかし、含み損資産の譲渡をうまく活用すれば、この△1億円を有効活用することができます。具体的には、上記の事例から、以下の取引を行ったとします。
取引①:土地を時価の1億円で譲渡
まず、土地を時価の1億円で譲渡します。今回のケースでは、法人から役員である推定被相続人へ譲渡したと仮定します。そうすると、以下のように多額の土地譲渡損が計上されます。
法人の仕訳:
借方: | 貸方: |
預金 1億円 | 土地 3億円 |
土地譲渡損 2億円 |
取引②:取引①と同じ決算期に、役員借入金2億円の債務免除を実施
あわせて、取引①と同じ決算期に、役員借入金の債務免除を行います。
土地譲渡損と同額の債務免除を行うことで法人税の課税は生じません。また、役員借入金を債務免除することにより、推定被相続人の相続財産を減らすこともできます。
法人の仕訳:
借方: | 貸方: |
役員借入金 2億円 | 債務免除益 2億円 |
取引①、②を実行した後の法人の純資産額と、推定被相続人の相続財産は以下の通りです。
取引①、②実施後の法人の純資産額:
資産の部: | 取得原価 | 時価 | 負債の部: | 取得原価 | 時価 |
土地 | 0円 | 0円 | 役員借入金(被相続人) | 0円 | 0円 |
預金 | 1億円 | 1億円 | 純資産の部: | 取得原価 | 時価 |
純資産 | 1億円 | 1億円 |
取引①、②実施後の推定被相続人の相続財産:
財産種類 | 評価額 |
法人貸付金 | 0円 |
非上場株式 | 1億円 |
土地 | 1億円 |
預金 | △1億円 |
相続財産合計 | 1億円 |
取引①、②の実行前後で、推定被相続人の相続財産は2億円から1億円に減少しています。
これは、土地を譲渡したことにより、法人の純資産の含み損△1億円を実現できたことによるものです。
さらに、推定被相続人が取得した土地に関しては、利用状況によっては小規模宅地特例の使用が出来る可能性もあり、さらに相続財産の評価額を減少できる可能性があります。
法人税と相続税のいずれも良く理解していないと構築できない取引ですが、資産の含み損をうまく利用すれば、相続税の大きな節税効果を生み出すことが可能になります。
注意点①:役員親族、同族会社への譲渡には注意!
上記の例では、役員である推定被相続人への譲渡を仮定しました。
第三者への譲渡ならば問題になるケースは少ないですが、役員親族、同族会社との譲渡の場合には、税務署も目を光らせます。相続税の節税対策のみの取引を実行してしまうと、取引そのものが否認されるリスクもあるため、取引の経済合理性などを検討することも重要になります。
注意点②:みなし贈与税課税などの思わぬ税務リスクに注意!
上記の例では債務免除を活用していますが、株価や株主構成によっては、債務免除に伴い、株主間のみなし贈与税課税が生じるリスクがあります。他にも、前提条件によっては様々な税務リスクが生じる可能性があります。
複雑な取引を実行すると、節税効果などのメリットが大きくなりやすいことも事実ですが、その分、思わぬリスクも多く生じることになります。
事前の税務リスクの分析のために、その税務分野に精通した専門家に意見を求めることが重要です。
顧問税理士の他に、専門の税理士にセカンドオピニオンを求める納税者もいます。
まとめ:含み損資産の有効活用には現状把握と専門家への相談が重要
含み損資産の概要とその税務上のメリットなどを解説いたしました。
含み損資産を有効活用するためには、まず自分の会社でどの程度の含み損が生じているかを把握することが必要です。
しかし、初めから会社が所有している全ての資産を時価評価するのは大変であるため、金額規模の大きい不動産や棚卸、株式などに絞って、時価を把握して含み損益を把握するのも良いでしょう。
また、資産の時価は常に変動するものであるため、例えば毎期の決算時ごとなど、把握した含み損益をアップデートして最新の情報を把握することが重要です。
そして、含み損益を把握した後の節税策や処分策の実行の税務処理は複雑です。ぜひ、税理士などの専門家に依頼し、自社の含み損資産の有効活用方法を相談していただくと良いかと思います。
お気軽にお問い合わせください
マロニエ会計事務所では、「含み損資産の活用による節税」に関するご相談を積極的にお受けしております。貴社の状況に合わせ、以下のような専門的な支援が可能です。
- 含み損資産の特定と評価: 貴社が保有する不動産、有価証券(株式など)、棚卸資産(不良在庫など)の中から、含み損が生じている資産を特定し、その活用可能性を評価します。
- 含み損実現による節税・コスト削減の実行支援: 特定した含み損資産について、譲渡または廃棄といった具体的な方法により損失を実現させ、法人税負担の軽減を図るプランを策定・実行します。
- 同時に、固定資産税や保管料といった資産維持コストの削減にもつなげます。
- 実行にあたっては、適正な時価評価(特に役員等への譲渡の場合)、グループ法人税制への配慮、廃棄エビデンスの確実な保管など、税務リスクを最小限に抑えるためのサポートを徹底します。
- 高度なスキームの検討・実行サポート(応相談)
- 状況に応じて、非適格組織再編(合併・会社分割)を利用した含み損の実現。
- 相続税対策として、非上場株式の評価額引き下げに含み損資産を活用するスキーム(債務免除との組み合わせ等)。
- 上記のような高度な手法については、メリット・デメリット、税務リスクを十分に分析・ご説明の上、実行をサポートします。
貴社の大切な資産を有効活用し、健全な財務体質の構築とキャッシュフロー改善を実現するため、専門的な知見から最適な方法をご提案いたします。

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