こんにちは。匿名組合出資の会計処理・税務処理にも強い、栃木・宇都宮のマロニエ会計事務所です。
皆様は節税対策として、銀行や大手リース会社から航空機リースの匿名組合商品を勧められたことはないでしょうか。
航空機リースにおける匿名組合スキームは、その高額な投資額と複雑な契約構造から、会計・税務の両面で専門的な知識と実務経験が求められる分野です。
特に、スキーム組成から運用期間中の処理、清算に至るまでの一連のプロセスにおける留意点を、具体的な事例を交えながら詳細に説明していきます。
なお、以下の解説の内容は、航空機以外のコンテナや船舶といった他の投資対象であっても同様です。
匿名組合と航空機リースの基礎知識
航空機リースにおける匿名組合スキームは、その柔軟な契約設計と税務上のメリットから、航空機投資の重要な手法として定着しています。
以下では、基本的な法的枠組みから実務上の処理に至るまで、体系的に解説していきます。
匿名組合の法的性質と基本構造
匿名組合は、商法第535条に規定される契約形態であり、営業者と匿名組合員の二者間の契約関係として成立します。
略して「TK」とも呼ばれたりします。
特徴は以下の通りです。
- 営業者による単独事業性
- 対外的な権利義務関係は全て営業者に帰属
- 匿名組合員の権利は営業者に対する債権的権利
- 損益分配の柔軟性
- 優先分配や損失限度額の設定が可能
- 期中償還などの柔軟な資金回収スキームの構築が可能
このような特徴により、匿名組合スキームは、投資家のニーズに応じた柔軟なストラクチャリングを可能とする有効な手段として活用されています。
航空機リースにおける匿名組合スキームの概要
銀行や大手リース会社が提供している航空機リースの匿名組合商品は、以下のような構造のものがほとんどかと思います。
- スキームの基本要素
- 営業者:航空機リース会社
- 出資者:機関投資家、事業会社等
- レッシー:航空会社
- 主要な契約関係
- 匿名組合契約:営業者と出資者の間で損益分配や意思決定権限を規定
- リース契約:営業者とレッシーとの間のリース条件を規定
- 融資契約:営業者が取引銀行と融資契約
レバレッジドリースとして、出資の他に金融機関からの借入を組み合わせることで投資可能金額のボリュームを増やし、出資者にとってより魅力的なリターン構造を実現することが可能となっています。
航空機リース匿名組合の会計実務
航空機リース匿名組合の会計実務では、組成から清算に至るまでの各段階で、適切な会計処理が求められます。
以下では、実際に数値例を用いて、各時点の会計、税務処理を解説いたします。
なお、匿名組合の出資金に関する会計処理の方法はいくつかございますが、以下では匿名組合から生じた損益の取り込みについては出資金勘定を変動させず、未収金、未払金勘定で調整する方法を採用します。
また、リース会社(営業者)が組成する以下のような匿名組合を想定します。
組成時の会計処理
航空機リースの匿名組合を組成する際は、リース対象である航空機の取得費用や諸経費を賄うため、営業者は複数の投資家から出資を募ります。
この出資に関する会計処理は、組成時における最も基本的な取引となります。具体的な出資金の処理方法について説明していきます。
出資金の会計処理
航空機リースの匿名組合では、多額の出資を複数の組合員から募ることが一般的です。本事例では、ある法人の出資者が総出資額10億円の匿名組合商品に対して、1億円(10%)を出資したというケースを想定します。
出資者側の仕訳は以下となります。
(借) 匿名組合出資金 100,000,000 / (貸) 現金預金 100,000,000
出資として支払った金額は、資産(出資金勘定)に計上します。
また、予め匿名組合の出資契約だけしておき、実際の出資金の振込は後日となるケースもありますが、その場合は出資金振込日までの経過利息相当の金額を営業者から請求されるケースが多いです。
支払った経過利息相当額は、出資金を取得するために要した附随費用として、出資金勘定に含める処理が一般的かと思われます。
期中取引の会計処理
期中取引の会計処理においては、損益分配金の取り込みや出資の返還の処理が重要となります。
匿名組合の決算時の会計処理(1期目)
匿名組合は出資者から受け入れた出資金や銀行の借入金を利用して、航空機を購入します。
そして、その航空機を借り手(レッシー)である航空会社へリースして収入を得ます。
匿名組合には決算月が設けられ、決算月の度に匿名組合の決算書を作成して、出資者に報告を行います。
以下は、匿名組合の1期目の決算日を迎え、匿名組合が11億円の当期純損失を計上した場合の出資者側の仕訳です。
(借) 匿名組合事業分配損 110,000,000 / (貸) 未払金 110,000,000
匿名組合で生じた損益については、その出資割合に応じて匿名組合の出資者に帰属します。
本設例の場合は、匿名組合全体としては11億円の当期純損失を計上していますが、そのうち出資割合10%分の1.1億円が出資者の損失として帰属するかたちになります。
実務的には、匿名組合の決算月のタイミングで、銀行や大手リース会社から匿名組合の決算書が送付されてきますので、その決算書に基づいて自社に帰属する損益を決算に取り込むだけで経理処理を行うことができます。
【注意点:匿名組合の決算期と出資者の決算期にズレが生じる場合の取扱い】
なお、匿名組合の決算期と出資者の決算期にズレが生じるケースも多いです。その場合は原則として、匿名組合で生じた損益のうち、出資者の決算期に含まれる部分を期間対応させて出資者の損益の帰属額を求める必要があります。
例えば、匿名組合の決算期が2月で、出資者の決算期が9月の場合、出資者の決算においては、匿名組合の10月~9月分の損益を帰属させるかたちとなります。
しかしこれを求めてしまうと、出資者が多い匿名組合の場合に匿名組合側は各出資者の決算期に応じて都度都度損益計算を行う必要があり、非常に煩雑です。
そこで、法人税基本通達14-1-1の2の但書きで、出資者法人への個々の損益の帰属が当該損益発生後1年以内である場合などの一定の要件を満たす場合には、出資者法人への帰属させる損益額は、匿名組合の計算期間を基として計算して良いこととなっています。
実務上は、ほとんどこの但書きを使用して、匿名組合の計算期間ベースで損益を帰属させているのではないかと思います。
【注意点:出資金額を超えて損失が発生した場合の取扱い】
本設例ですと、出資金額1億円を超えた1.1億円の損失が出資者に帰属しています。
この場合、出資者が特定組合員に該当するなどの一定のケースにおいては、出資金を超えた部分の損失については税務上損金として計上することが認められません。
匿名組合のスキームを悪用して出資者に出資金額を超える多額の損失を帰属させ、節税を行っていた事例が過去に相次いだことから設けられた規制となります。
特定組合員とは、組合の重要な財産の譲渡等の意思決定に関与しない組合員などをいい、リース会社から購入するような匿名組合の出資金に関しては、ほぼこの特定組合員に該当してしまうケースが多いかと思います。
今回のケースですと、1.1億円の損失のうち出資金額を超える0.1億円が、損金不算入となります。
この損金不算入は留保項目の調整となりますので、将来組合から利益が生じた場合には、留保項目で繰り越された金額が取り崩され、利益と相殺することができます。
匿名組合の決算時の会計処理(2期目)
匿名組合が2期目の決算日を迎え、匿名組合全体として3億円の当期純利益を計上した場合の出資者側の仕訳は以下の通りです。:
(借) 未払金 30,000,000 / (貸) 匿名組合事業分配益 30,000,000
匿名組合から利益が生じた場合にも、出資割合に応じて利益を出資者に帰属させます。
前期以前に未払金を計上していた場合には、その未払金を取り崩すかたちとなります。
また、税務上損金不算入となっていた匿名組合事業損失が存在する場合には留保項目が解消され、税務上は利益と相殺することができます。
本事例ですと、1期目に0.1億円の損金不算入が留保項目で生じていましたが、2期目においては当該留保金額を実現させ、減算調整することが可能です。
匿名組合の出資金の返還
匿名組合の営業者から各出資者に対して、合計1億円の出資金の返還があった場合の仕訳は以下の通りです。:
(借) 現金預金 10,000,000 / (貸) 出資金 10,000,000
匿名組合の契約によっては、一定期間ごとに出資金額の一部を返還するような契約形態も存在します。出資者に対して早期に資金を返還して、出資者の資金繰りを良くさせる意図があるものと思われます。
仕訳としては、受け取った金額分、出資金勘定の残高を減らすかたちになります。
出口時の会計処理
前項のように毎期の匿名組合の決算数値の取り込みなどを重ねていき、最終的には予め当初予定していた時期に匿名組合が解散するかたちとなります。
匿名組合は航空会社へリースしていた航空機を売却して、その後に残余財産を各出資者に分配することで清算されます。
残余財産の分配時の処理
「匿名組合が航空会社へ航空機を売却して当期純利益を9億円計上した。」
その後、組合を解散し残余財産として各出資者に10億円の分配金を支払った、という場合の仕訳は以下の通りです。
(借) 未払金 80,000,000 / (貸) 匿名組合事業分売益 90,000,000
(借) 未収金 10,000,000/
(借) 現金預金 100,000,000 / (貸) 出資金 90,000,000
/ (貸) 未収金 10,000,000
(借) 未払金 80,000,000 / (貸) 匿名組合事業分売益 90,000,000
(借) 未収金 10,000,000/
(借) 現金預金 100,000,000 / (貸) 出資金 90,000,000
/ (貸) 未収金 10,000,000
予め匿名組合契約で定められた解散事由によって組合は解散します。航空機リースを目的とする場合は、航空機を売却して解散となるケースが多いかと思われます。
航空機売却時には多額の利益が発生するため、当該利益が出資者に帰属します。その後、残余財産の分配が行われますが、素直に入金された分配金を出資金勘定で消し込むかたちで問題ございません。
匿名組合における税務実務のポイント
航空機リースの匿名組合における税務実務における注意点を以下に記載いたします。
税務調整のポイント
匿名組合の税務調整においては調整を適切に行わないと、税務申告に誤りが生じる可能性があるため、慎重な対応が求められます。
損益分配における税務処理
匿名組合における損益分配については、出資者が特定組合員に該当する場合、出資者の税務申告において、出資額以上の損失を税務上の損金として取り込むことができません。
既に出資額以上の損失を取り込んでいるにも関わらず、別表で加算調整が漏れているといったことがないように十分注意しましょう。
なお、加算調整された損失に関しては、将来、当該組合から利益が発生した時に実現させ、減算調整します。
これにより、会計上の損益と税務上の損益が別表調整により一致せず、納税予測が非常に行いづらくなってしまうので、注意しましょう。
分配金の加算、減算調整については、別表9(2)で計算します。別表の作成漏れが起きないように留意してください。
源泉徴収実務
匿名組合契約に基づく利益の分配については、営業者の側において源泉徴収義務が生じます。
国内法人の出資者に対する利益の分配については、20.42%の源泉徴収が行われたあとの金額で分配金が振り込まれます。
出資者の税務申告においては、別表6(1)を作成することにより、当該源泉徴収税額を所得税額控除として法人税額から控除できますので、控除の調整は忘れないようにしましょう。
税務申告実務
非常に実務的かつテクニカルな情報になりますが、匿名組合の税務申告にあたっての留意点を解説いたします。
別表と匿名組合決算書との間の整合性確認
別表9(2)の中に、組合事業に係る簿価純資産差額という欄があり、基本的にこの金額は匿名組合の貸借対照表の純資産の金額と整合します。
別表9(2)を作成したあとに、匿名組合の貸借対照表と数値が整合するか、確認するようにしましょう。
添付書類について
匿名組合の決算書や事業報告については、申告書への添付は必須ではありません。
書面添付制度を採用されている税理士さんは、参考資料として添付することもあるかもしれませんが、基本的には別表の作成のみで問題ないかと存じます。
税務調査対応
匿名組合に対する税務調査では、営業者から交付される匿名組合の決算書や分配金の計算資料と、法人税申告書との間の整合性を確認されます。
営業者から交付される資料に関しては、決算資料として適切に保存しておくようにしましょう。
匿名組合出資におけるリスク管理と実務上の留意点
航空機リースの匿名組合出資では、様々なリスク要因が存在します。
投資判断の際には、出資金の毀損リスク、レッシー(借主)の信用リスク、為替変動リスクなど、複数の観点からの慎重な検討が必要となります。
これらのリスクを適切に理解し、管理することが、投資の成否を左右する重要なポイントとなります。以下では、主要なリスク要因について詳しく見ていきましょう。
基本的なリスク要因
匿名組合出資にはいくつかの重要なリスク要因が存在し、出資判断に際しては、これらのリスク要因について十分な検討が必要です。
出資金の毀損リスク
匿名組合出資においては、基本的に出資者は出資額を超えた損失を蒙ることはありません。しかし、匿名組合の出資は数億円と多額になることも多いため、可能ならば投資は全額回収したいところです。
また、分配金も必ずもらえるというものではなく、投資先の事業が破産などしてしまった場合には、出資した金額が一切戻ってこないというリスクもあります。
案件選定時の留意点
利回りが多い商品は魅力的に感じるところですが、その分、レッシーの倒産のリスクも高くなります。投資時には、投資対象の商品(航空機、船舶、コンテナなど)や、レッシーの財務状況を精査する必要があります。
実際に大手のリース会社のリリースで、取り扱っている匿名組合のレッシーが破産してしまったというニュースも目にしました。
為替変動への対応
為替リスクも注意したいところです。匿名組合の出資商品は外貨建てのものが多く、為替が円高に振れることによって将来の分配金が目減りしてしまう可能性があります。
商品特性と実務上の制約
匿名組合出資商品には、その商品性から生じる固有の制約や特徴があります。これらの特性を理解することは、適切な判断を行う上で重要な要素となります。
流動性の制約
基本的に中途解約もできません。匿名組合は投資対象の資産を売却して解散し、その売却益で出資金を返還するといったことが多いため、組合の解散までは中途解約することが難しいです。
税務に対する理解
また、匿名組合出資を用いた商品を販売している会社はいくつかあります。それらの会社の営業トークは、「匿名組合を使えば多額の損金を一気に作ることができる」、というものです。
ただし、うまい話だけというわけではありません。
上記の処理の流れを見ても分かるように、たしかに投資期間の初期には投資対象資産の減価償却費等により多額の損金が発生しますが、将来匿名組合が解散するときには、分配金が利益として課税されてしまいます。
結局は、投資期間全体で見ると節税効果はなく、単なる課税の繰り延べに過ぎません。
資金効率への影響
さらに、匿名組合の解散、分配までは複数年の期間待たなければならず、その間は出資金は手元に戻ってこず、資金繰りも圧迫してしまいます。
匿名組合の出資商品における実務上の総合判断
私個人としては、匿名組合の出資商品はあまりおすすめはできないと考えています。
例えば、株価対策で匿名組合の出資商品が用いられるケースもあります。
判断時の留意点
商品の紹介者(税理士や銀行などの仲介業者)には多くの手数料収入がバックで入るケースもあるため、勧誘してくる方のポジショントークには惑わされず、投資としてメリットがあるかどうかをご自身でも入念に調べてからご判断いただくのが良いかと思います。
- 出資の目的との整合性
- 資金計画への影響
- 仲介業者の立場の理解
- 独自の調査・分析の必要性
このように、匿名組合出資は、その目的や自社の状況を踏まえた総合的な判断が必要な手法といえます。
特に、仲介者からの提案内容については、客観的な視点での検証が不可欠となります。
まとめ
匿名組合スキームは、会計・税務の両面で高度な専門性が求められる投資手法です。
匿名組合スキームの投資や会計税務処理を成功させるためには、これらの実務ポイントを踏まえた上で、案件の特性に応じた柔軟な対応が求められます。
特に、会計と税務の両面での専門的知識に基づく適切な判断と、実務経験に裏打ちされた運営ノウハウの蓄積が、実務上の重要な成功要因となります。
以上のように、匿名組合スキームの実務では、会計・税務の専門的知識に加え、豊富な実務経験に基づく総合的な判断が必要となります。
マロニエ会計事務所では、BIG4・都内税理士事務所で培った専門性と、数多くの案件実績を活かし、スキーム組成から運用、出口戦略まで、一貫したサポート体制を整えております。
お見積り・提供サービスのご説明は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。
\ 24時間受付しております!/