【製造業経営者必見】製品原価の適正化で利益改善|6つの見直しポイント

きし

こんにちは。栃木・宇都宮で製造業の資金繰り支援が得意なマロニエ会計事務所です。

製造業の経営者の皆様、こんな経験はありませんか?

「現場では利益が出ているはずなのに、決算書を見ると思ったより利益が少ない…」
「売価を決める時に、本当にこの値段で利益が出るのか不安になる…」

私のもとにも、このようなご相談を数多くいただきます。

これらの原因を追究していくと、期末の棚卸、原価計算が適切に行われていないということにたどり着くことが多いのです。

棚卸資産(仕掛品、製品)の金額算定のための原価計算については、各企業の裁量に任されている部分が多くあります。

きし

そのため、「これが正解」といった方法が浸透しておらず、特に中小企業はよくわからないまま期末の棚卸資産の金額を求めているケースが多いのではないでしょうか。

また、税務調査でも、何となくそれっぽく原価計算が行われていればそこまで細かく突かれることもない印象です。

しかし、原価計算や棚卸は、特に期末の棚卸資産の残高が多額になりがちな製造業や建設業では、売価設定や販売戦略にも影響を及ぼす非常に重要な作業になります。

そこで本記事では、原価計算や棚卸を誤ってしまった場合の経営に対する影響や、誤りが生じる要因やその対策について解説していきます。

なお、私は製造業の工場経理部で原価計算を担当し、さらに監査法人でも製造業のクライアントをメインで担当していたことから、原価計算や棚卸に関しては他の公認会計士、税理士よりも知識や経験に強みがあります。
そのため、生の失敗事例なども交えながら解説していきたいと思います。

目次

原価計算・棚卸の誤りが経営に与える深刻な影響とは?

「たかが原価計算、棚卸」と思っていると、経営判断を大きく誤る可能性があります。以下で誤った原価計算を行ってしまった場合の影響をご紹介いたします。

①経営実態と決算数値が乖離してしまう

「実態では粗利益率がもっと高いはずなのに、なぜか決算を締めると粗利益率が想定していたよりも少ない。」
「見込んでいた利益よりも決算数値が大きくマイナスとなってしまった。」

こんな経験はないでしょうか。

特に製造業や建設業などの原価計算を行う業種では、これらは原価計算の誤りが原因である可能性があります。 以下に簡単な損益計算書のイメージを示します。

売上高1,000
期首棚卸高100
仕入高500
期末棚卸高△200
売上原価400
売上総利益600
販売費及び一般管理費300
営業利益300

売上原価の一項目として、「期首棚卸高」と「期末棚卸高」があります。

「売上高」や「仕入高」は請求書の数値をそのまま会計システムに転記すれば集計可能であり、誤りが生じる可能性は少ないです。しかし、棚卸高については各社独自の方法で製品や案件の原価計算を行わなければならず、誤りが生じる可能性が高いです。

そして、例えば期末の棚卸資産の原価計算を誤ってしまうと、「期末棚卸高」の数値が実態と乖離し、それより下の売上原価や売上総利益の数値も連動して誤ってしまいます。

そして、期末の棚卸資産の原価計算の誤りは、翌期の損益計算書の期首棚卸高にも影響を及ぼしてしまいます。

原価計算を1つ間違えただけで、最低でも2期分の損益計算書の数値が誤ることになってしまいます。

経営者が実態は利益が出ていると思って商品を販売していても、期末の原価計算を誤ってしまうと、実態の経営数値と決算書の数値が乖離してしまうことになるのです

実体の経営数値と決算書の数値が乖離してしまうと、銀行や投資家に経営状況が誤って理解されてしまったり、不採算な案件やプロジェクトを発見できず赤字の案件ばかり受けてしまい、知らぬ間に経営状態が悪化していってしまうようなリスクも生じてきます。

②適切な売価設定ができない

基本的に商品やサービスの売価の設定は、原価を積み上げて、そこに自社の利益(マージン)を乗せて行うケースが多いです。

そのため、ベースとなる原価計算を誤ってしまうと、それに連動して売価(売上)の設定も誤ってしまいます

結果として、「本当はもっと高く売価を設定しないと利益が出ないのに、安い売価を設定してしまって薄利販売になってしまった」、その逆で「本当はもっと安い売価で販売できるはずなのに、相場よりも高い売価を設定してしまい他社との販売競争に負けてしまった」といったことが起こり得ます。

原価計算というと決算書を作るための地味な作業というイメージがありますが、実際には企業の売上や販売戦略にも影響を及ぼす非常に重要な作業になります。

【重要】原価計算の誤りを引き起こす6つの要因と効果的な対策

棚卸資産の原価計算は大きく分けると以下の2つの構成要素に分けられます。

「数量」(数の話)と「単価」(価格の話)です。

原価計算の誤りの要因は、「数量」か「単価」のいずれかの話に行き着きます。私は工場経理での経理経験があり、かつ、監査法人時代も製造業の監査が多かったため、非常に多岐にわたる原価計算の誤りの事例を経験してきました。 その中でも代表的な誤りの要因とその対策をご紹介していきます。

①棚卸数量の正確かつ網羅的なカウントが出来ていない【「数量」の問題】

棚卸というと、「期末時点に残っている在庫をただ数えるだけ」と考えている方が多いですが、実際には注意点が多くあります。

きし

棚卸数量のカウントにあたっては、「正確性」と「網羅性」が重要です。

「正確性」は、実際に存在する在庫を誤りなく数えることが出来ているか、といったことです。

大量にアイテム数があるような業種ですと、現場の棚卸担当者が適当なカウントをしてしまっているということも往々にしてあります。

私も監査法人時代には大企業の工場の棚卸の立会いをしていましたが、カウント誤りにはよく遭遇しました。また、正確にカウントはしたのだけれども、在庫表や在庫システムに実際にカウントした数が反映されていない(=棚卸差異が反映されていない)といったことミスも経験があります。

正確性を担保するためには、棚卸担当者1人だけで完結するのではなく、上長のサンプルチェック、ダブルカウントの実施を行うことが重要です。そして、カウントした数量が最終的に決算書に繋がる管理表(在庫表や在庫システム)に反映されているといった点まで確認しましょう

また、「網羅性」にも注意が必要です。

例えば、会社によっては売上を出荷時点ではなく、相手先の検収日基準で計上している場合があります。このような場合、期末時点では既に出荷され工場等に物理的に存在しない在庫であっても、まだ検収が行われていない場合には自社の在庫として決算書には計上する必要があります。

一方で、期末時点でまだ工場等には物理的に在庫が存在しているのに、相手先には既に販売済みという、預かり在庫というものも存在します。

これは、物理的に自社に在庫が存在していたとしても、自社の決算書に在庫として計上してはいけません。

上記の未検収在庫や預かり在庫のように、物理的な在庫の存在有無と、帳簿の計上要否が異なるような在庫があるため、棚卸カウント時の網羅性には注意が必要です

きし

「未検収在庫についてはロジ部門と連携し、未検収品については経理に情報を共有する」、「預かり在庫については他の棚卸資産とは別の区画に配置し棚卸のカウントに含めないようにする」、といった対策が有効です。

「棚卸はただ単に数を数えるだけ」と思われがちですが、上記のように「正確性」や「網羅性」を担保するためには多くの留意すべき事項があります。いつも決算書の棚卸の数値が実態と整合しないと感じている場合には、棚卸のカウントから「正確性」や「網羅性」の観点が抜け落ちている可能性があります。

②労務時間が適切に集計できていない【「数量」の問題】

各製品やプロジェクトにかかった労務時間の集計も原価計算においては非常に重要です。

労務時間は労務費の算定だけではなく、間接費の配賦基準にも使用されることが多いためです

労務時間の集計にあたっては、製品やプロジェクト別の工数を集計できるような工数管理システム、日報システムなどの導入を行うのが望ましいと思います。

しかし、中小企業ではなかなかこれらのシステムを導入する余裕がないこともあり、実態と乖離した労務時間数で労務費の算定や配賦計算を行っているケースを見受けます。

また、これは大規模企業に多い傾向ですが、社員が自分の担当する製品、プロジェクトの案件の採算を良く見せたいがために、実際に作業しているプロジェクトとは違うプロジェクトに稼働時間をチャージするようなケースも見受けます。

いずれにせよですが、上記のような実態と乖離した労務時間の集計を行ってしまうと、原価計算全体に大きな影響を及ぼしてしまうかたちになり、棚卸資産の残高も実態とは大きくズレてきてしまいます。

これらの問題に対しては、「可能ならば工数管理システム等を導入して製品、プロジェクト別の労務時間集計を行う」、「集計した労務時間については担当部門の上長や経理部などがレビューを行い、実際の稼働時間と集計時間の間に乖離がないかをレビューする」といった対策が考えられます。

③材料費や労務費単価の更新を行っていない【「単価」の問題】

中小企業では原価計算や生産管理のシステムを導入することがコスト面などから難しく、手書きやエクセルの表で原価計算を行っていることも多々あります。

また、特に仕掛品や製品の集計については、1アイテムごとの材料費や労務費、間接費等の集計を毎期行うのも非常に煩雑です。

そのため、昔に計算した仕掛品や製品の単価をそのまま引き継ぎ、期末時点の数量だけ更新して棚卸資産の残高を計算してしまっている会社もあります。

しかし、これでは最新の材料費や労務費の相場を反映することができず、実態とは異なった原価計算が行われてしまいます。

特に近年では材料費や労務費の単価はインフレ傾向であり、実態が昔の単価とは大きく乖離していることも考えられます。単価の更新を行っていない場合には、直近の材料費や労務費の単価を使用して仕掛品や製品の単価を再計算することを原価計算適正化のための対策として強くおすすめいたします。

税務上も棚卸資産の評価は原則としては最終仕入原価法であり、直近の単価を使用することになっておりますので、税務調査のリスクを抑えるという面でも有効な対策です。

きし

また、中小企業に限らず、原価計算を専用のシステムで計算しているような会社も注意が必要です。

原価計算システムでは各アイテムの単価をマスターとして保持していることが多いかと思います。(BOM:Bill Of Materialsといったりします。)このマスターが古い情報のまま更新されていないということもあります

④間接費の集計が漏れている【「単価」の問題】

これは税務調査でもよく指摘される事項です。棚卸資産の残高を構成する費用は大きく直接費と間接費に分かれます。簡単に表にまとめると以下の通りです。

製造原価直接費材料費
直接人件費
外注費 等
間接費減価償却費
消耗品費
水道光熱費
製造間接部門人件費
旅費交通費
地代家賃 等

間接費は、減価償却費や消耗品、製造間接部門の人件費といった幅広い項目が含まれてきます。

税務調査では、材料や現場作業員の人件費、外注費のみを集計して期末の仕掛品、製品残高を計算した結果、間接費の集計が漏れているとして、棚卸資産の残高が過少に計上されている(=利益を少なく計上している)といった指摘がよく行われます

そして、多くの企業は税務調査で間接費の計上漏れを指摘されて、それ以降は間接費も含めて原価計算を行います。

ここまではよくある話です。本記事では、さらに一歩踏み込んで考えてみたいと思います。

税務調査官も原価計算のプロではありませんので、一見して、減価償却費や消耗品などの間接費がそれっぽく原価計算の集計対象に入っていれば、それ以上深くは突っ込んでこないというのが私の印象です。

しかし、適切な売価設定や実態に沿った決算書を作るといった目的で間接費の集計を適正化していきたいなら、「税務調査で通ったからOK」レベルの水準では足りないと考えています。「税務調査で通った」=「適正な原価計算が行われている」、ということではない点に注意してください

私は工場経理部員として間接費の集計方法見直しのプロジェクトに関わっていたことがあります。

特にその会社では税務調査で原価計算に対して何か指摘があったという事実は過去になかったのですが、工場内にある50くらいの部門の費用の直接費/間接費の区分や配賦基準の見直しを行っていたところ、本来は仕掛品や製品の原価に含めるべき間接部門の経費が、販管費等で費用として流れてしまっていたことが判明しました。

間接費として現在集計している費用の範囲が本当に正しいのかどうか、実際の各部門の業務内容や費用の支出先を精査して判断することが原価計算の適正化のための対策として重要です。

⑤間接費の配賦基準の更新が漏れている【「単価」の問題】

製造している製品の種類が多い会社などは注意が必要です。

間接費に関しては工場全体に係るようなものも多いため、各製品の製造工数や使用面積等の何かしらの基準で各製品に対して配賦して集計します。製品の種類などが増えてくると、この配賦基準の設定や更新が漏れてしまい、適切な原価計算ができないといったことがあります。

きし

これも私の実体験ですが…

工場内に新製品の工程が新設されたので、会計システム上で新製品の原価を集計していったのは良いのですが、間接費の配賦先に当該新製品の工程を設定するのを失念してしまい、間接費が新製品に一切配賦されないといったことがありました。

何ヶ月かして、「新製品の製品単価が安すぎる」、といった指摘が他部門から入り発覚したのですが、なかなか気づきづらいミスであるといえます。

間接費の配賦基準に関しては、毎月必ず1回は見直し、実際に存在する工程と比較して漏れがないかどうか確認する、といったことがミス防止の対策として重要です。

また、間接費の配賦基準の設定の考え方等については、以下の関連記事もご参照いただけますと幸いです。

⑥費用を計上する部門の判定が甘い【「単価」の問題】

ある製品やプロジェクトに直接紐づく費用は、その紐づく部門に直接計上するのがあるべきかたちです。直接紐づかない費用に関しては間接費として計上し、その後、各部門に配賦します。

しかし、日常で発生した費用の仕訳を入力する際に、どの部門で発生した費用であるかといった確認を疎かにして、面倒なので間接費として計上してしまうことがあります
そうすると、例えば本来はA部門のみにしか関連しない費用であるのに、間接費としてA、B部門と他部門にも配賦されるかたちになってしまい、B部門の原価計算が実態とは乖離してしまいます。

これを防止するには、日常の仕訳入力の際に面倒臭がらずに、担当部門にどの部門のために発生した費用であるかどうかを逐次確認することが重要です。
一方で、どこまで厳密に計上部門の判定を行うか、金額等のルールを設けておくことも重要です。

私が以前勤務していた会社では非常に厳密に費用の計上部門の管理を行っていました。数百円の郵便費用をどの部門で計上するかの確認のために、経理担当者が現場部門の担当者に1時間くらいかけて確認作業を行っていたこともありました。

流石にその当時の経理部の上司は、数百円程度なら間接費として計上しても良いと経理担当者を諭していましたが、特にいくら以下の費用なら簡便的な部門判定を行ってよいかという基準はありませんでした。

きし

例えば、「〇万円以下の費用で計上部門が明らかでないものは間接費として計上する」といったようなルールを設けておくと実務的ですし、メリハリも出て、結果として適切な費用の部門判定が行えるのではないかと思います

原価計算を適正化するために重要なマインドセット

中小企業の実態として、原価計算や棚卸を適正に行っている会社は非常に少ないというのが実感です。

期末日後の決算作業中に形だけの棚卸を行ったり、単価も適当に計上しているということもあります。また、実際の期末時点の棚卸残高はなかなか税務調査でも分からないということで、それを良いことに、自身の望む決算書の利益になるように棚卸の残高を恣意的に調整するような事例も見聞きするところです。

中には毎年のように棚卸残高を恣意的に調整しており、もはや何が真の数値なのか会社自身も分からなくなっているような事例もあると聞いたことがあります。

そのような適当かつ恣意的な棚卸残高に基づいて作成された決算書の利益を見ても、経営実態は何も見えてきません。

「なぜ利益が思ったより出ていないのか」、「この決算数値を見て今後どのようにしていけばよいのか」と考えようとしても、そもそも決算数値が不正確であるため、地に足がついていないような状態であり、その決算書からは経営に関する有益な判断情報は得られません

そのため、真に経営改善、経営分析を行いたいと考えるならば、原価計算の適正化は必須です。「原価計算、棚卸なんて適用にやっておけばよい」、「利益が出ていないから棚卸残高を調整する」といったようなマインドではいつまで経っても経営は良くなりません

原価計算、棚卸に限らずですが、あるべき実態を決算書に表示する、というのが経営改善のための第一歩です。

まとめ|適正な原価計算で経営力を向上させよう

本記事では原価計算や棚卸を誤ってしまった場合の経営に対する影響や、誤りが生じる要因やその対策について解説しました。

普段、原価計算や棚卸について「よくわからない」と感じている経営者も多いのではないかと思います。

しかし、原価計算や棚卸を疎かにしてしまうと、売価(売上)や経営判断にも悪影響を及ぼしかねません。

特に棚卸資産の残高が多くなる傾向にある業種の企業においては、本記事が原価計算や棚卸の適正化のお役に立てれば幸いです。

きし

また、本記事では記載しきれなかった製造業等の原価計算の失敗事例や改善ポイントも多くありますので、原価計算、棚卸を適正化して、実態にあった決算数値を作成したいという方は是非お問合せいただければと思います。

お気軽にお問い合わせください

マロニエ会計事務所では、製造業・建設業の原価計算適正化と棚卸管理体制の構築について、幅広くご相談を承っております。たとえば、以下のようなサポートが可能です。

  • 製品・プロジェクト別の原価計算シート作成と運用体制の構築支援
  • 棚卸数量の正確性・網羅性を担保する実務フローの整備
  • 労務時間集計システムの導入検討と工数管理体制の構築
  • 材料費・労務費単価の定期更新ルールの策定
  • 間接費の適切な集計範囲と配賦基準の見直し
  • 税務調査対応を見据えた原価計算根拠資料の整備
  • 適正な売価設定のための原価管理体制の構築

こうした幅広い支援メニューを取りそろえ、貴社の現状やご要望に合わせた柔軟な対応をいたします。

きし

「原価計算が実態と合わない気がするが何から見直せばよいか分からない」「税務調査で間接費の計上漏れを指摘されたが対応方法が分からない」「適正な売価設定ができるような原価管理をしたい」など、まずはお気軽にお悩みをお聞かせください。

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