
こんにちは。工場経理として、間接費や共通費の配賦基準の見直しプロジェクトに従事していた宇都宮市のマロニエ会計事務所の岸です。
皆さんは、間接費や共通費の配賦基準の設定について悩んだことはないでしょうか。
例えば、製造業の会社では、工場全体に渡って発生する電力費や建物の減価償却費といった間接費が発生します。
製造業ではない会社でも、複数の部門や店舗を展開している会社では、各部門や店舗に対して直接紐づかない、総務経理部門などの費用が共通費として発生します。
私自身も企業の経理職員時代にはかなり頭を悩ませていた論点です。
そこで今回は、実際に製造業の工場経理として、間接費や共通費の配賦基準の見直しプロジェクトに従事していた筆者が、配賦基準設定にあたっての考え方や実務上の注意点などを解説していきます。
間接費の配賦基準を設定する目的と重要性

間接費や共通費の配賦基準を設定する目的には、以下のようなものがあります。
- 適切な原価計算を行うため
- 正確な管理会計情報を作成するため
重要性も合わせて解説していきます。
①適切な原価計算を行うため
複数の製品を製造しているような製造業では、会計や税務上の観点から、棚卸資産を計上するために、製品別の原価計算を行う必要があります。
ここで、各製品に直接紐づく材料費や設備の減価償却費に関してはそのまま原価として集計すれば問題ありませんが、工場全体の電力費や建物の減価償却費、工場経理部門の人件費といった間接的な費用(間接費)については、何かしらの配賦基準で各製品に紐づけて、原価として集計する必要があります。
この間接費を原価に集計せずにそのまま販売費及び一般管理費などで費用計上してしまうと、棚卸資産に集計される原価が過少になってしまいます。

そうなってしまうと、会計監査や税務調査の指摘事項になります。
②正確な管理会計情報を作成するため
複数の部門や店舗を展開している企業では、部門別や店舗別のPLを作成して損益管理を行うことがあります。
また、その部門別や店舗別のPLは、各部門や店舗に属する社員の人事評価や賞与の査定などの管理会計目的に利用されることもあります。
ここで、各部門や店舗に直接紐づく材料、経費、人件費はそのまま集計すれば良いのですが、複数の製造ラインに跨って発生する費用や本社の総務経理部門の人件費などの共通費に関しては何かしらの配賦基準で各部門に紐づける必要があります。
また、部門別の管理会計の情報は、上場企業では固定資産やのれんの減損損失の判定に利用されることもあり、会計上も重要な意味合いを持ってきます。
間接費配賦の基本的な考え方と設定方法
ネットの記事や書籍などで、勘定科目別の配賦基準の具体例が掲載されていたりしますが、必ずしもそれに縛られる必要はありません。
配賦基準は、一部の会計基準では例示などがあるものの、明確にこれを使いなさいと指定されているわけではないので、企業側に一定の裁量が与えられています。(だからこそ、皆さん頭を悩ませるわけですが。。)
自社のシステムや管理している情報のレベル感にあわせて、自社なりの配賦基準を設定するという温度感で考えておけば良いかと思います。
間接費・共通費の配賦基準の具体例
配賦基準の具体例には以下のようなものがあります。
配賦対象科目 | 配賦基準 |
---|---|
電気料金 | 各部門の電気使用量 |
水道料金 | 各部門の水道使用量 |
建物の減価償却費 | 各部門の建物の使用床面積 |
建物、土地の固定資産税 | 各部門の建物、土地の使用床面積 |
設備の損害保険料 | 各部門の設備の帳簿価額 |
経理部門のコスト | 各部門の仕訳起票数 |
本社部門のコスト | 各部門の在籍人員数 |
このように、各費用の性質や管理可能な数値に応じて適切な配賦基準を選択することが重要ですが、実務では配賦計算の負担と精度のバランスを考慮する必要があります。
配賦基準の設定・変更における実務上の注意点とポイント

配賦基準の設定にあたっての注意点とポイントは以下の通りです。
- 配賦基準を複雑にし過ぎない
- 配賦基準の設定は経理以外の部門も巻き込んで行う
- 各部門の立場になって考える
- 配賦基準の変更を行う場合には監査法人に事前に情報共有する
①配賦基準を複雑にし過ぎない
配賦基準は、細かく設定しようとすればいくらでも細かく設定できます。
「間接費・共通費の配賦基準の具体例」で例示した配賦基準の中には、集計が非常に煩雑なものも含まれています。
例えば、各部門の毎月の電気使用量や仕訳起票数を集計するのは非常に大変です。
また、配賦基準の種類が多くなりすぎると、配賦基準の数値の更新漏れが生じる可能性もあります。ある配賦基準の数値が、3年間もずっと更新されていなかった、という事例に遭遇したこともあります。
たしかに、各費用の実態に合った配賦基準を設定すれば正確な配賦計算を行うことができることは事実なのです。
しかし、月次決算を行うような企業では、配賦基準の数値は毎月更新することが多いかと思います。
月次決算の過密なスケジュールの中で、その配賦基準は本当に毎月集計、更新することができるのかどうか。
実務的な工数やリソースも考慮して、配賦基準を複雑にし過ぎないことが重要です。
②配賦基準の設定は経理以外の部門も巻き込んで行う
配賦基準の設定は経理以外の部門も巻き込んで行う必要があります。
まず、配賦基準の集計作業に関して、在籍人員数は人事総務部から情報を得る必要がありますし、建物の使用床面積の集計に関しては設備管理や製造部門の方の協力を得る必要があります。
経理部門があるべき配賦基準を示しても、実際に各部門がその配賦基準を集計できないといったケースもありえます。
経理以外の部門にもヒアリングして、実務的に集計可能な配賦基準を設定する必要があります。
筆者自身も、工場内の製造部門、経営管理部門、施設管理部門などに訪問してヒアリングを行った経験があります。
③各部門の立場になって考える
部門別の損益が各部門の社員の人事評価に連動している場合には、配賦基準の設定や変更は、自身の給与や賞与に関わる一大イベントになります。

私も、ある勘定科目の配賦基準の変更を製造部門に打診した際に、製造部門の部門長から猛反対にあった苦い経験があります。
経理部門から見れば、間接費や共通費の総額は決まっており、それを単に各部門にどうやって割り振るか、といった視点になりがちですが、その配賦基準を変えることによって、各部門にどのような影響があるのかといった点を、幅広い視野で考える必要があります。
配賦基準の設定や変更は、社内の調整力が試される仕事でもあります。
④配賦基準の変更を行う場合には監査法人に事前に情報共有する
配賦基準の変更は、様々な会計論点に影響を及ぼします。
原価計算の観点では、棚卸資産の原価が変わると、低価法や滞留損の金額も変わる可能性があります。
固定資産やのれんの観点でいうと、各部門に配賦される費用が変動すると、減損損失の判断結果が変わる可能性があります。
近年では、配賦基準を恣意的に操作して、棚卸資産や減損損失の論点で不正を行う事例も増えており、監査法人も配賦基準については目を光らせています。
配賦基準の変更を行う際には事前に監査法人に情報共有することによって、後の監査で指摘事項となるといったことが起きないようにしましょう。
外部専門家の活用と配賦基準の妥当性確認

「どのような費用を間接費、共通費として配賦すべきなのか。」
「自社の採用している配賦基準は妥当なのかどうか。」
「他社はどのような配賦基準を採用しているのか。」
「この配賦基準を変えると、どのような影響が生じるのか。」
自社で配賦基準の設定や見直しを行おうとしても、これらの疑問に躓いてしまう方が多いかもしれません。
まとめ:適切な間接費配賦基準の設定に向けて
間接費、共通費の配賦基準の設定について、その考え方やポイントを筆者の実体験を踏まえて解説いたしました。
配賦基準の設定については、各企業に一定の裁量が与えられています。
そのため、自社にとってどのような配賦基準が最適かを考え、それを会計監査や税務調査で説明できるようにしておく必要があります。
また、配賦基準の設定は経理だけの問題だけではなく、他部門の社員の人事評価などにも影響する可能性のある論点です。
筆者自身も配賦基準の見直しを行っていた時には、参考となる書籍やネットの記事が少なく、非常に苦労した経験があります。
本記事が配賦基準の設定や変更を考えられている方にとっての指針になれば幸いです。
お気軽にお問い合わせください
マロニエ会計事務所では、間接費・共通費の配賦に関するご相談を幅広くお受けしております。
- 配賦基準の設計見直し支援
- 実務上の工数を考慮した配賦計算の効率化
- 部門別採算管理体制の構築
- 配賦計算に関するマニュアル整備
- 監査法人との事前協議のサポート
- 配賦基準変更時の社内調整支援
こうした幅広い支援メニューを取りそろえ、御社の状況に合わせた柔軟なサポートを行います。
まずは「こんなことで悩んでいる」「こういう改善を目指したい」というお気持ちをお聞かせください。

初回相談やお見積もりも承っておりますので、お気軽にお問い合わせいただければ幸いです。
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