株式移転で持株会社化するメリットとは?グループ戦略を加速させる会計・税務・実務ガイド

きし

こんにちは。栃木・宇都宮のマロニエ会計事務所です。

企業グループの経営者や管理部門の方々からは、「事業部制や子会社化は進めてきたものの、ホールディングス体制へ移行するとどんなメリットがあるのか分かりづらい」「株式移転や株式交換、合併など再編スキームが多すぎて判断に迷う」「持株会社化した後のガバナンスや税務上のリスクが不安」など、多くのご相談をいただきます。

こうした課題に対応するグループ全体の経営戦略を強化する手段として、最近注目されているのが”株式移転”による持株会社(ホールディングス)の設立です。

しかし、実際に株式移転を行うとなると、会計処理や税務上の取扱いがどうなるのか、どのような手続きが必要なのかなど、初めて経験する方にとって不明点が多いのも事実です。

手続きや法務・会計周りの整理を適切に行わないと、後から想定外の税負担やグループ管理上のトラブルが発生する可能性があります。

本記事では、「株式移転による持株会社化」を検討される経営者や管理部門の方々の疑問を解消し、スムーズな再編ができるように必要な実務のポイントをまとめました。

具体的な事例を交えながら分かりやすく解説いたしますので、ぜひご一読ください。

目次

【株式移転の基礎知識】持株会社化の意義

株式移転による持株会社化は、複数の子会社を効率よく一元管理し、グループ全体の戦略を推進していくために有効な手段です。

しかし、そもそも株式移転とは何か、なぜホールディングス体制が注目されるのか、その基本的なポイントを整理しておきましょう。

株式移転とは?

株式移転とは、「新設会社(持株会社)を設立し、既存の会社(複数可)の株式をその持株会社に移転することで、既存会社が持株会社の子会社になる手法」をいいます。

具体的には、既存の会社の株主に対し、新たに設立された持株会社の株式が交付され、その結果、新設された会社が既存会社の株式を保有する形(親子関係)になります。

株式交換との違い

株式移転と類似するスキームとして「株式交換」があります。

株式交換は、既存の会社同士の一方が完全親会社となり、もう一方が完全子会社となる方法です。

一方、株式移転は新たに親会社(持株会社)を作り出す点が異なります。

すでに親会社として機能する会社があり、その会社の傘下に別の会社を取り込む場合は株式交換を用いることが多いですが、新たに持株会社を設立して複数子会社を傘下に収めたい場合は株式移転が選択されるケースが一般的です。

具体例

ある製造会社Aと販売会社Bという2社が存在し、それぞれの株主構成が異なるとします。

2社それぞれが同一グループとして経営を強化したい場合、株式移転によって新たに“株式会社ホールディングス”という会社を設立し、そのホールディングスがA社とB社の株式を保有する形にすることで、両社は持株会社の100%子会社になります。

この結果、戦略立案・ガバナンス・資金管理をホールディングスが一括して行えるようになるわけです。

ホールディングス体制のメリット

近年、多くの企業がホールディングス体制を選択する背景には、以下のようなメリットがあります。

1.グループ経営の効率化

事業ごとに分社化することで各子会社が明確な目標を持ち、自律的に事業を進められる反面、グループとしての戦略がばらばらになりやすいという課題があります。

持株会社化により、親会社が各子会社を統括しやすくなり、資本政策やリスク管理を一元化できる点が大きいでしょう。

2.リスク分散

事業ごとの法人化により、ある子会社で大きな損失が生じたとしても、グループ全体に波及するリスクをある程度限定できます。

持株会社体制になれば、法的にも経済的にもリスクコントロールがしやすくなるのです。

3.意思決定の迅速化

持株会社では、グループ全体戦略を担う“中枢”が一本化されます。重要な投資判断やM&Aの是非など、トップダウンで意思決定が速やかに下されるため、市場の変化への対応力が高まります。

4.税務上のメリット

後述しますが、株式移転を“適格”の形で行うことで株式移転子法人の資産負債の時価評価課税を繰り延べられる可能性があります。

また、株式移転実行後には、グループ法人税制の活用により、課税上のメリットを享受しやすくなる場合もあります。

5.相続対策のメリット

相続や贈与でHD化した会社の株式を移動する際、HDである親会社が所有する子会社株式の評価について、その含み益の37%相当額を評価額から控除できるケースがあります。

従来の事業会社の上に、株式移転を利用してHD親会社を設立することにより、実質的に事業会社の相続税法上の株価を大きく引き下げることができる可能性があります。

きし

こうしたメリットを最大限に活かすためには、しっかりとした事前準備が欠かせません。

とくに会計や税務の面では、事業価値や株式の評価をどのように行うか、適格要件を満たすための条件を揃えているかなど、チェックすべき項目が多岐にわたります。次の章では、株式移転の会計処理に焦点を当て、共通支配下取引との関係やのれん計上の有無などを解説します。

【株式移転の会計処理】共通支配下取引とのれん

ここでは主に、株式移転における会計処理のポイントを解説します。

株式移転はグループ内の再編と位置づけられることが多く、会計基準上は「共通支配下の取引」に該当するケースがほとんどです。

共通支配下取引ではのれんの扱いや連結財務諸表への影響が通常の企業結合とは異なるため、正確な知識が必要です。

 グループ内再編における共通支配下取引

共通支配下取引とは、同一支配下にある企業同士が組織再編を行う場合に適用される会計処理です。

典型的には、親会社と子会社間や、兄弟会社間で行われる合併・分割・株式交換・株式移転などが該当します。

株式移転においても、多くの場合は既存のオーナー(同一支配株主)が移転前後でも引き続き支配力を維持する構造となるため、「共通支配下取引」とみなされることが一般的です。

連結財務諸表への影響

共通支配下取引の場合、連結上は新たな収益や費用を計上しないという考え方になります。

すなわち、移転前の帳簿価額を引き継ぎ、のれんや負ののれんといったものは基本的に認識しません。

一方、個別財務諸表では新会社(持株会社)が既存会社の株式を取得する取引となるため、取得原価の計上などが必要となります。

たとえば、親会社が子会社の株式を発行済株式総数100%取得する取引であっても、同一支配下であれば連結上の評価替えは行いません。

ただし、個別財務諸表では取得時点での株式取得額(通常は移転される資産価値)を計上するという形になります。ここでの“取得額”の評価を誤ると、後々税務上のトラブルにも発展し得るため、慎重に進める必要があります。

持株会社設立時の評価・のれん計上の有無

新設の持株会社が既存会社の株式を取得する際、連結決算上は基本的にのれんを計上しないケースが大半です。

理由は上記のように、同一支配下取引として扱われるからです。

ただし、移転前の支配株主と移転後の支配株主が異なる場合など、必ずしも共通支配下取引に該当しない状況もあり得ます。

その場合は一般的な企業結合の会計処理(取得原価の割り当て、のれんの計上など)となる可能性があります。

個別決算と連結決算での違い

個別決算

新設持株会社が支配を獲得する会社の株式を取得するため、その取得価額を関係会社株式などとして計上します。このとき、株式の時価評価や簿価評価など評価方法が問題になることがあります。

連結決算

既存オーナーから見れば支配構造が実質的に変わらない場合は、共通支配下取引として扱い、のれん計上は行いません。

このように、会計上の処理は「同一支配下か否か」で大きく変わります。実務上は、株主構成がどの程度変化するのか、経済的支配力が移転前と移転後で変わらないかなどを詳細に検討し、適用される会計基準を判断する必要があります。

もし判断を誤った場合、後の監査で指摘を受けるリスクがありますので注意しましょう。

株式移転の税務上のポイント。適格株式移転とその要件

続いて税務面のポイントを解説します。

株式移転は【適格株式移転】と呼ばれる一定要件を満たす形で行うと、株式移転子法人の資産負債の時価評価課税の繰延べなど税務上の恩典を受けることが可能です。

しかし、そのためには要件を満たす必要があり、要件を外れてしまうと大きな税負担が発生するおそれもあります

適格要件と税務上の効果

適格株式移転とは、税法上で定められた特定の要件を満たす場合に認められるものであり、簡単に言えば「株式移転でも株式移転子法人における時価評価損益が発生しない(課税が繰り延べられる)ように扱う」ための制度です。

株式移転の形態にもよりますが、例えば完全支配関係のある法人間での適格株式移転の要件には以下のようなものがあります。

1.完全支配関係の継続要件

株式移転後における親会社と子会社の間の完全支配関係が継続すること。

2.金銭等不交付要件

株式移転の対価として、株式移転完全親法人の株式以外の資産が交付されないこと。

これらを満たすと、株式移転子法人の資産に含み損益が生じていても、時価評価課税を繰延べることができる可能性が高まります。

要件を外れるとどうなる?適格要件を満たさなかった場合、株式移転子法人が所有する資産の含み損益がそのまま課税対象になります(一部、時価評価課税対象外の資産もあります)。

オーナー個人が大きな所得税負担を強いられたり、法人間の取引の場合でも法人税額が急増したりする可能性があります。

適格株式移転の大きなメリットの一つが税務面の優遇である以上、要件を確実に押さえながら準備を進めることが重要です。

グループ法人税制や完全支配関係がある場合の特有の処理

株式移転によって完全支配関係(100%親子関係)が構築されると、「グループ法人税制」などの税制が適用されるようになります。これは、完全子会社間の取引に対して設けられている特例的制度です。代表的なものとしては以下のような取扱いがあります。

1.配当金の益金不算入

完全子会社からの配当金は原則として親会社の益金になりません(既に子会社段階で課税されているため、二重課税を防ぐ意図です)。

2.譲渡損益の繰延べ

グループ内取引によって固定資産などを譲渡した場合、譲渡損益を将来に繰り延べる特例があります。

持株会社化した後、こうしたグループ法人税制などをうまく活用することで、法人全体での税負担を最適化できます。ただし、税務上の手続きや要件確認が必要なものが多いため、専門家と連携して進めることが望ましいです。

特に、グループ内取引や最新の資本構成を適切に管理しないと、後々の税務調査で指摘を受けるリスクがある点には注意が必要です。

株式移転の実務上の留意点。ガバナンス整備と運営体制

株式移転による持株会社化は、書面上のスキームだけでなく実務面の体制づくりが非常に重要です。

具体的には、株式移転計画の策定から株主総会での決議、会社法上必要な書類の作成・提出など、多岐にわたるステップを慎重に進める必要があります。

また、持株会社設立後は親子会社間の取引ルールや管理体制を見直し、ガバナンスを確立していくことが求められます。

株式移転計画の作成と株主総会決議

1.株式移転計画の策定

まずは新設持株会社の基本事項(商号、事業目的、本店所在地、資本金など)や、移転対象となる子会社の概要を盛り込んだ「株式移転計画」を作成します。ここでは、株式移転の目的・効力発生日・株式割当の割合などを明記します。特に株式評価や割当比率を誤ると、移転後の株主構成や税務に影響を及ぼすため、慎重な検討が必要です。

2.株主総会での承認

株式移転計画を策定したら、子会社(移転する会社)の株主総会でこれを承認する必要があります。新設持株会社に関しては、設立にあたり同計画を公証人の認証を受けるなど所定の手続きを踏むことになります。承認後は法務局への登記申請など、会社法上の要件を順次満たしていきます。

3.必要となる書類とスケジュール管理

株式移転計画書、株主総会議事録、登記申請書、定款など、必要となる書類は多岐にわたります。提出先も法務局や税務署など複数にまたがることがあります。事前にスケジュールをしっかり策定し、計画的に進めることが大切です。ここを怠ると、移転の効力発生日がずれ込んだり、想定外の期限遅延による罰則・手数料がかかったりするリスクがあります。

持株会社設立後の組織体制

株式移転を無事完了しても、そこで終わりではありません。

きし

むしろ持株会社化してからの運営体制が本番です。

1.親子会社間取引の見直し

グループ内取引における契約関係、移転価格(例えばロイヤリティや手数料の設定など)、貸付金や借入金の利息設定などが適正かどうか再確認します。

不適切な設定があると、移転価格税制や受取配当金の課税関係などで問題が生じる可能性があります。

2.管理体制の変更

持株会社がグループ全体を管理するための組織を整えることが必要です。具体的には、経営管理部門や財務・経理部門、内部監査部門などを持株会社に設置し、子会社の事業運営をモニタリングします。

取締役会の構成や執行役員制度の導入など、ガバナンス強化に向けた再編も検討されることが多いです。

3.統制・ルール作りの明確化

持株会社と子会社のどちらがどの業務範囲を担当するのか、意思決定のプロセスはどうするのかなど、具体的な統制ルールを策定・周知しておかなければ、逆に決裁の遅れや内部混乱を招きかねません。

ここをクリアにしておくことで、本来のホールディングス体制のメリットである“迅速な意思決定”や“効率的なグループ経営”が実現しやすくなります。

まとめ・専門家への相談ガイド

株式移転による持株会社化は、グループ全体の戦略を加速させる強力な手段であり、リスク分散や税務メリットなど多くの利点が期待できます。

一方で、会計・税務・法務・ガバナンスといった多方面にわたる専門的な知識を要するため、十分な準備と正確な実行が不可欠です。最後に、手続きのポイントを振り返りながら、当事務所としての支援内容をご紹介いたします。

1.持株会社化のメリットを最大化するためのチェックリスト

  • 株主構成や支配権の移転状況から見て、「適格株式移転」として認められる要件を満たしているか
  • 会計上の「共通支配下取引」に該当するのか、それとも一般的な企業結合になるのか
  • 持株会社としての事業目的・機能・組織体制は明確になっているか
  • 株主総会決議、登記申請、税務届出などの手続きとスケジュールは問題ないか

2.ガバナンス体制や税制メリットの活用における専門家の役割

  • 税務面:適格要件の判定、グループ法人税制の適用状況をチェックし、最適な節税策を提案
  • 会計面:個別・連結決算処理の整合性をとりつつ、将来の資本政策に対応した評価・会計処理をサポート
  • 法務面:会社法上必要な手続きのアドバイスや、株主総会決議・登記スケジュール管理
  • ガバナンス面:持株会社としての管理部門再編、社内規程の整備、親子間取引の適正化

お気軽にお問い合わせください

マロニエ会計事務所では、「株式移転による持株会社化」のサポートに関するご相談を幅広くお受けしております。たとえば、以下のような支援が可能です。

  • 株式移転計画書の作成支援および株主総会決議・登記手続きのサポート
  • 適格要件を満たすための税務コンサルティングと関連届出書類の整備
  • 共通支配下取引の会計処理や連結決算への影響分析・アドバイス
  • グループ法人税制の有効活用と税務メリットを見据えた再編スキーム立案
  • 持株会社設立後のガバナンス体制構築や親子会社間取引ルールの整備

こうした幅広い支援メニューを取りそろえ、貴社の現状やご要望に合わせた柔軟な対応をいたします。

きし

「ホールディングス体制への移行に踏み切りたいが、どのような準備が必要か分からない」「税負担を抑えつつグループ経営を強化したい」など、まずはお気軽にお悩みをお聞かせください。

初回のご相談やお見積もりも無料で承っておりますので、ぜひお気軽にご連絡ください。

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