
こんにちは。栃木・宇都宮のマロニエ会計事務所です。
上場企業の子会社や大規模グループ会社でキャッシュフロー計算書(CF計算書)の作成を任された方は、このような不安を感じられるのではないでしょうか。
- 「営業CF・投資CF・財務CFの区分がごちゃごちゃ…」
仕訳の振り分けが複雑で、どこから手をつければいいか迷ってしまいます。 - 「監査法人や親会社のレビューが厳しくてツラい…」
ちょっとした区分ミスでも再提出を求められ、作業が膨大になってしまいます。 - 「短期間で正確に仕上げるための体制が足りない…」
通常業務も多忙を極めるなか、CF作成だけで手一杯。社内サポートも乏しい状況です。
結論として、この3つの不安を解消するためには、キャッシュフロー計算書作成の基本フローを正しく理解し、監査や親会社の要求を的確に捉えることが欠かせません。
「複雑なCF計算書を、短期間かつミスなく仕上げて監査を通したい」という担当者の皆さまに向けて、具体的なノウハウと社内体制の築き方までカバーしています。
順を追って、キャッシュフロー計算書にまつわる不安を解消していきましょう。
キャッシュフロー計算書の基礎知識〜上場子会社が押さえるポイント

キャッシュフロー計算書は、企業の現金・現金同等物の増減を営業活動・投資活動・財務活動という3区分に分けて報告する財務諸表です。まずはキャッシュフロー計算書の基本的な考え方や注意点を確認していきましょう。
なぜキャッシュフロー計算書が重要なのか
キャッシュフロー計算書が重要視される背景としては、投資家や金融機関が企業の資金繰りや成長余力を判断するうえで、実際の資金の動向を把握する必要があるという理由が挙げられます。
損益計算書(PL)や貸借対照表(BS)だけでは把握しにくい、実際の現金収支が明確に示されるため、企業の健全性や投資余力、借入金返済能力などを総合的に評価する材料として活用されます。
連結キャッシュフロー計算書は、投資家に対してグループ全体の資金の流れを可視化し、経営判断やリスク評価に役立ててもらう重要な情報源となります。
直接法と間接法の比較
キャッシュフロー計算書には大きく「直接法」と「間接法」がありますが、一般的には「間接法」がほとんどです。
監査対応としても、PLやBSとの整合性を確認するうえで、間接法のほうが手続きが明確という見解を持つ監査法人が多いのも事実です。
もっとも、親会社から「直接法で作成してほしい」という要請がある場合もあります。
グループ全体のポリシーや開示方針に従って決定されるため、子会社としては基本的に親会社の連結パッケージで求められる形式に合わせることが必須です。
作成担当者はどちらの手法になるかを事前に確認し、必要なデータ収集体制を整備しておくことが大切です。
上場企業子会社ならではの留意点
上場子会社としてキャッシュフロー計算書を作成する際は、有価証券報告書や決算短信など、法定開示書類の一部としての精緻性が求められます。
具体的には、下記のようなポイントを念頭に置く必要があります。
有価証券報告書でのキャッシュフロー計算書の位置づけ
親会社の開示書類では、連結キャッシュフロー計算書が重要な分析項目の一つです。子会社としては、連結パッケージ提出時に誤りがあると、親会社の開示情報にまで影響を与えるリスクがあります。
監査法人のレビュー観点(正確性・継続性)
監査法人は、数値の正確性だけでなく、前年度や前四半期との継続性(科目の対応関係や区分の一貫性)も重視します。前年との比較で大きく変動している項目については、合理的な説明を求められるでしょう。
親会社とのコミュニケーション
キャッシュフロー計算書に限らず、上場企業グループでは会計方針の統一や科目マスターのすり合わせが必須です。親会社からの指示が二転三転しないよう、定期的な打ち合わせや共有会議を行い、スケジュール管理を徹底しましょう。
キャッシュフロー計算書作成の実務プロセス

上場企業子会社のキャッシュフロー計算書作成では、「親会社の連結パッケージをいかにスムーズに作成するか」が重要なポイントとなります。
必要な資料やスケジュールを事前に把握し、営業CF・投資CF・財務CFの区分を正しく行い、間接法ならではの注意点を押さえましょう。
事前準備 – 必要帳票とスケジュール
キャッシュフロー計算書を円滑に作成するには、まず以下の帳票やデータを準備することが不可欠です。
試算表・個別BS/PL
基本的には、最新の試算表(TB)と正式な決算書(BS/PL)をもとにキャッシュフロー計算書を作成します。修正仕訳や会計監査後の修正事項が反映されていない場合は、後の修正作業が複雑になるため注意が必要です。
子会社間取引の資料
同じグループ内の他子会社と取引がある場合は、相互貸付や債権債務の取引、配当金の授受などを洗い出しておきます。連結調整が必要となるケースも多いため、事前のリストアップが重要です。
親会社の連結パッケージ
親会社が提供する連結パッケージには、キャッシュフロー計算書の作成手順や入力項目が定められています。自社の会計データと連結パッケージの形式・項目定義を照合し、不一致や科目の差異があれば早期に調整を行いましょう。
また、スケジュール管理も重要な要素です。
監査法人のチェック期間や親会社への提出期限に間に合うよう、
決算締め→数値の確定→CF計算書の作成→レビュー→修正対応
というプロセスを逆算し、各ステップに適切な時間を配分する必要があります。
営業CF・投資CF・財務CFの区分
キャッシュフロー計算書では、資金の動きを以下の3つの活動に区分します。それぞれの区分を正しく行うことで、資金の流れと事業活動の実態を正確に把握できるようになります。
- 営業活動によるキャッシュフロー(営業CF)
- 投資活動によるキャッシュフロー(投資CF)
- 財務活動によるキャッシュフロー(財務CF)
営業活動によるキャッシュフロー(営業CF)
企業の主たる営業活動に伴う資金の増減です。売掛金や買掛金の増減、棚卸資産(在庫)の増減などが代表的な項目となります。一般的に「当期純利益」に、非現金支出(減価償却費など)や運転資金増減を調整して算定します。
投資活動によるキャッシュフロー(投資CF)
固定資産の取得・売却や、有価証券の取得・処分など、企業が事業を展開・成長させるために行う投資に伴う資金の増減を指します。上場子会社であれば、親会社から取得した資産やグループ内取引での資産移転についても投資CFに含める必要がある場合があります。
財務活動によるキャッシュフロー(財務CF)
増資や借入金、配当金支払いなど、企業が資金を調達・返済する活動による資金の増減です。親会社からの増資や親会社への配当、借入金の返済・借換えなどは財務CFで処理されます。グループ内での資金移動(貸付金・借入金)についても、連結ベースでは調整が必要となるため注意が必要です。
間接法によるキャッシュフロー計算書の算出例
営業CFの作成方法は間接法が一般的です。以下は基本的な算出例ですが、作業時の理解を深めておきましょう。
- 当期純利益(損益計算書から)
- 減価償却費などの非現金支出を加算 減価償却費、減損損失、引当金の増減などをプラス要素として調整します。
- 売掛金・買掛金など運転資本の増減を加減 売掛金が増加している場合は資金がまだ回収されていないため、マイナス要素として扱います。買掛金が増加している場合は資金をまだ支払っていないため、プラス要素となります。
- その他、一時的な収入・支出を調整 固定資産売却収入などは投資CFに区分されるため、営業CFからは控除する必要があります。
実際には、貸倒引当金や退職給付引当金など、科目ごとに仕訳をどのキャッシュフロー区分に割り当てるか詳細な判断が必要となります。特にグループ内取引での仕訳が多い場合は、重複計上や不整合が発生しやすいため、親会社の方針や監査法人の指示を踏まえて適切に処理しましょう。
監査法人や親会社からよくある指摘事項

上場企業子会社のキャッシュフロー計算書で生じやすい誤りや、監査法人・親会社からの指摘事項をあらかじめ把握しておくことは、作成担当者のリスク管理につながります。ここでは代表的な3つの論点を取り上げます。
相互取引(グループ内貸付・配当等)の処理漏れ
グループ内で行われる貸付や配当金の授受は、個別で見れば「財務CF」や「投資CF」に計上されるケースがあります。しかし、親会社側の連結手続ではこれらが消去・調整される場合があるため、消去漏れや重複計上が生じないよう注意が必要です。
- 貸付金・借入金の相殺
子会社同士で貸付・借入を行った場合、連結ベースでは相殺されるのが原則です。子会社担当者は、どの取引がどの取引と相殺されるのか、事前に把握しておくことが重要です。 - 配当金の処理
親会社へ配当金を支払う場合は、個別BS/PLやCF計算書上では財務CFとして処理しますが、連結では子会社から親会社への配当金はグループ外部への流出とはみなされないため、消去対象となります。
連結パッケージ数値との間の不整合
キャッシュフロー計算書の数値と連結パッケージの数値が不整合となっているケースもあります。
例えば、連結パッケージでは、借入金の増加や返済の明細表を作成するケースが多いのですが、その借入金の増加や返済の動きと、財務CFの借入金の返済等の数値が不整合となってしまうと、キャッシュフロー計算書と注記情報等の数値の整合性が取れなくなってしまいます。
特に規模の大きいグループのCF計算書になると、外部の投資家や監査法人が一目見ただけでは、なかなか個々の項目の誤りに気付かないものです。
しかし、他のBS、PLといった本表や注記との開示間の不整合を生じさせてしまうと、キャッシュフロー計算書の誤りは一目瞭然となってしまいます。例えば、キャッシュフロー計算書の減損損失や減価償却費の金額がPLの数値と不一致になっていると、すぐにミスが明らかになります。
そのため、キャッシュフロー計算書の作成にあたっては、他の開示書類及びその元となる連結パッケージ数値との間の整合性は注意深く確認する必要があります。
勘定科目の統一と表記の一貫性
親会社との科目マスターの不整合から生じる集計誤りも、よくある指摘事項の一つです。
特にキャッシュフロー計算書の科目は、PLやBSに比べて分類基準が異なるため、マスターを個別企業ごとに独自にカスタマイズしていると整合性の不一致を引き起こします。
科目マッピングの徹底
親会社が要求するキャッシュフロー計算書の科目と、自社で使用している科目を紐づけるマッピング表を作成し、担当者間で共有することが重要です。不完全なマッピングや担当者個人の裁量で運用していると、決算期に混乱が生じやすくなります。
表記の揺れや区分の重複を防止
「仕入債務」「買掛金」「未払金」など、実質的に同じ取引を指していても表記が異なる場合は、キャッシュフロー計算書での分類に不統一が生じることがあります。
親会社の連結チームによる確認の段階で修正を求められる前に、グループ全体でで表記の統一を徹底しておくことが望ましいです。
実務担当者が活用できる仕組み・ツール

キャッシュフロー計算書の作成業務の効率化と、監査対応の品質を維持するには、ITツールや外部専門家の支援を適切に活用することが有効です。ここでは、システム連携と専門家への依頼による利点について具体的に解説します。
システム連携・会計ソフトのCF作成機能
仕訳データなどをもとに自動的にキャッシュフロー計算書を生成する機能が実装されているソフトもあります。ただし、実務では自動生成された結果をそのまま使用することは適切ではなく、以下のようなチェックプロセスを組み込むことが重要です。
- 自社の科目分類との整合性確認
ソフトが自動仕訳をベースにCF区分を割り当てる仕組みであっても、特殊な取引やグループ内取引などは誤った判定がなされる可能性があります。必ず自社の科目マッピングと照合して整合性を確認する必要があります。 - 監査対応に必要な証跡収集
「どの仕訳がどのキャッシュフロー区分に算入されたか」を示す追跡可能性が重要です。監査法人からの質問に対し、即座に根拠資料を提示できる状態を維持することが求められます。 - 前年度や他拠点・他子会社との整合性確認
同一のソフトウェアを使用していても、バージョンや設定の相違により科目区分が微妙に異なることがあります。親会社から提供される連結パッケージとの整合性も含め、継続的な比較と調整作業が不可欠です。
外部専門家への依頼による利点
キャッシュフロー計算書の作成や監査法人への対応は、通常業務と並行して実施すると多大な負担となるため、公認会計士へ一部業務を委託することを検討する企業が増加しています。具体的な利点としては、以下の点が挙げられます。
監査法人出身の公認会計士によるレビュー
監査法人の視点を熟知している公認会計士であれば、想定される指摘事項を事前に予測し、適切な対応を行うことが可能です。これにより監査対応の効率性が向上します。
税効果会計など他の高度な会計論点との一体的な相談
キャッシュフロー計算書は、減価償却費や引当金の増減、税効果会計など、他の会計論点と密接に関連しています。これらの専門的な論点についても包括的に専門家の知見を得られることは重要な利点といえます。
短期決算や四半期レビューへの対応
上場企業子会社では四半期ごとにレビューが実施されるため、外部専門家と協力体制を構築しておくことで、決算期末だけでなく四半期決算対応も円滑に進めることが可能です。特に人的リソースが限られた子会社にとって有効な支援となります。
キャッシュフロー計算書は、BSやPLなどの数値が固まってから作成される最後の財務諸表です。また、作成プロセスも非常に複雑であり、経理のチームリーダーしかキャッシュフロー計算書を作成できないという会社様も多いのではないかと思います。キャッシュフロー計算書の作成だけを公認会計士に外注して人的リソースの不足を補うという会社様もいらっしゃいます。
まとめ・専門家活用の指針
ここまで、上場企業子会社の経理・財務担当者がキャッシュフロー計算書を作成する際に重要となるポイントについて解説してきました。
まずは、「キャッシュフロー計算書は企業の実態を把握する重要な指標」であることを認識することが重要です。PLやBSだけでは把握が困難な資金の流れを可視化し、投資家や金融機関、そして親会社を含むグループ全体が、企業の健全性や投資余力を適切に評価するための重要な情報として活用されます。
キャッシュフロー計算書の作成において特に重要な要素は以下の通りです:
- 事前の帳票・データ準備(試算表、子会社間取引資料、連結パッケージの整合性確保)
- 営業CF・投資CF・財務CFの適切な区分と、間接法による調整プロセスの正確な理解
- 監査法人や親会社からの一般的な指摘事項(相互取引の処理、区分誤り、勘定科目の一貫性確保)への事前対応
- システム連携や外部専門家の活用による業務効率化
これらの要素を適切に実施することが、正確なキャッシュフロー計算書作成の基盤となります。
「上場基準に準拠したキャッシュフロー計算書の作成を社内リソースのみでは十分に対応できない」「監査法人のレビューにおいて継続的な課題がある」などの課題がある場合、公認会計士・税理士事務所など、上場企業の監査対応に精通した専門家への相談も有効な選択肢となります。専門家による支援は、決算実務や税効果会計などの関連する会計処理を含め、包括的なサポートを受けることが可能です。
キャッシュフロー計算書は企業の資金収支を正確に把握するための重要な財務諸表です。作成実務における不明点や疑問点がある場合は、上場企業グループの監査対応に精通した専門家に相談することで、効率的かつ正確な作成プロセスの構築が可能となります。
お気軽にお問い合わせください
マロニエ会計事務所では、上場子会社のキャッシュフロー計算書作成や監査対応に関するご相談を幅広くお受けしております。たとえば、以下のようなサポートが可能です。
- キャッシュフロー計算書作成のアウトソーシング
- 監査法人レビューを見据えた資料整備や社内マニュアルの作成支援
- 親会社連結パッケージとの整合性チェックと区分ミスの事前防止
- 投資CF・財務CFの複雑な取引(リファイナンス・リース等)に関する会計処理相談
- グループ内貸付・配当の調整を含めた仕訳や勘定科目マッピングの見直し
- 監査法人や親会社とのコミュニケーション・折衝サポート
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