完全無議決権株式で自社株が激安に?配当還元方式による株価対策の節税効果とリスクを税理士が解説

きし

こんにちは。栃木・宇都宮のマロニエ会計事務所です。

金融機関やコンサルティング会社から、完全無議決権株式を活用すれば自社株を非常に安価な配当還元方式で移転できる方法がある、と言われたことはないでしょうか。

事実として、現行の税法では完全無議決権株式を活用して配当還元方式評価を行うことは可能ですし、相続税や贈与税の節税効果も非常に高いです。

しかし、私個人としては、非常にリスクのある取引であると感じており、大きなリスクも潜んでいます。

そこで今回は、完全無議決権株式を活用した配当還元方式評価を推奨するというよりは、その節税効果とリスクをよく理解いただき、金融機関などから提案を受けた際に誤った判断を行ってしまわないように、注意喚起の意味合いでの記事となっています。

なお、本記事は令和7年4月20日時点の税法や関連情報に基づいて作成しております。

目次

完全無議決権株式とは?種類株式の基本をわかりやすく解説

会社法では、株式会社の株式の一部について、普通の株式と権利や内容が異なる種類株式という株式を導入することを認めています。種類株式には、拒否権付株式や配当優先株式などいくつかの種類があるのですが、その中に議決権制限株式というものがあります。

議決権制限株式というのは、株主総会において、全部または一部の議案につき議決権を行使することができない株式をいいます。このうち、議決権の全部を行使することができない株式を無議決権株式といいます。

無議決権株式になると株主総会での議決権行使ができなくなるため、役員の選任や役員報酬の決定の決議などの会社経営の根幹に関わる意思決定に参加できなくなります。

非上場株式の評価方法と配当還元方式が適用される条件

非上場株式の税務上の評価は、大きく分けて「原則的評価方式」と「配当還元方式」に分かれます。配当を実施する習慣がない中堅、中小企業においては、一般的に「原則的評価方式」の方が「配当還元方式」よりも株価が高くなりやすいです。

場合によっては、「原則的評価方式」が「配当還元方式」の数百倍、数千倍の株価になるといったこともあります。そのため、出来るならば自社の株式を「配当還元方式」で評価して、非上場株式の相続や贈与の際の税金を低く抑えたいと誰しもが思うところです。

しかし、国税庁はそのような納税者の思惑はお見通しで、自社株を「配当還元方式」で評価するためには、以下のような要件を満たすことを求めています。

以下は、配当還元方式を適用できるケースを示した通達です。

財産評価基本通達188  同族株主以外の株主等が取得した株式

178《取引相場のない株式の評価上の区分》の「同族株主以外の株主等が取得した株式」は、次のいずれかに該当する株式をいい、その株式の価額は、次項の定めによる。

(1) 同族株主のいる会社の株式のうち、同族株主以外の株主の取得した株式

この場合における「同族株主」とは、課税時期における評価会社の株主のうち、株主の1人及びその同族関係者(法人税法施行令第4条《同族関係者の範囲》に規定する特殊の関係のある個人又は法人をいう。以下同じ。)の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の30%以上(その評価会社の株主のうち、株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が最も多いグループの有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の50%超である会社にあっては、50%超)である場合におけるその株主及びその同族関係者をいう。

(2) 中心的な同族株主のいる会社の株主のうち、中心的な同族株主以外の同族株主で、その者の株式取得後の議決権の数がその会社の議決権総数の5%未満であるもの(課税時期において評価会社の役員(社長、理事長並びに法人税法施行令第71条第1項第1号、第2号及び第4号に掲げる者をいう。以下この項において同じ。)である者及び課税時期の翌日から法定申告期限までの間に役員となる者を除く。)の取得した株式

この場合における「中心的な同族株主」とは、課税時期において同族株主の1人並びにその株主の配偶者、直系血族、兄弟姉妹及び1親等の姻族(これらの者の同族関係者である会社のうち、これらの者が有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の25%以上である会社を含む。)の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の25%以上である場合におけるその株主をいう。

~~以降省略~~

「同族株主」や「中心的な同族株主」に該当しないかどうか、という点がポイントになります。両者の詳細な定義は省略しますが、要は一定割合以上の株式を保有していると、「同族株主」や「中心的な同族株主」に該当してしまい、「配当還元方式」が適用できなくなってしまうということです。

そして、赤字で強調しているように、同族株主であるかどうかの判定等については、保有割合は見ずに、あくまで議決権の数のみで判定するということが重要なポイントです。

「配当還元方式」を適用するための要件をさらに分かりやすくするために、平成19年に公表された国税庁の見解を以下にご紹介いたします。

資産課税課情報 平成19年3月9日 種類株式の評価について(情報)【抜粋】

(参考)無議決権株式を発行している場合の同族株主の判定

同族株主に該当するか否かの判定は、持株割合ではなく議決権割合により行うことから、

同族株主グループに属する株主であっても、中心的な同族株主以外の株主で議決権割合が5%未満の役員でない株主等は、無議決権株式の所有の多寡にかかわらず同族株主に該当しないこととなるので、その株主等が所有する株式は評価通達 188-2((同族株主以外の株主等が取得した株主の評価))により配当還元方式を適用して評価することに留意する。

結論としては、太字で強調している通り、「中心的な同族株主以外の株主」で、「議決権割合が5%未満」の「役員でない」株主等が相続や贈与で非上場株式を承継する場合には、配当還元方式で評価して良いと記載しています。

まとめると、

・中心的な同族株主以外の同族株主で
かつ
・議決権割合は5%未満で
かつ
・その非上場会社の役員ではない

といった条件を満たす者に株式を承継すれば、配当還元方式という非常に安価な評価額で自社株の相続や贈与が実行できてしまうわけです。

完全無議決権株式を活用した配当還元方式による株価対策の具体例

では実際に例を用いて、完全無議決権株式を活用した非上場株式の節税策をご紹介いたします。

あるオーナー企業の会長が非上場の自社株式を普通株式で100株持っていたとします。

これを財産評価基本通達の原則的評価方式で評価すると3億円、配当還元評価方式で評価すると10万円であったとします。このまま会長に相続が発生すると、この会社の株式を相続した人には基本的に原則的評価方式の3億円に対して課税されてしまいます。

まず、会社の普通株式100株のうち99株を無議決権株式に転換します。

そして、この99株を、当該会社の役員ではない親族外の他人(中心的な同族株主以外の人)に贈与します。

99株は無議決権株式であるため、議決権割合も5%未満となります。

そのため、上記で解説した配当還元方式で評価して良い条件を満たすわけです。

そうすると、贈与を受けた人には、その非上場株式の評価額に対して課税が行われるわけですが、配当還元方式による評価額であるため大した課税額にはなりません。

また、会長に残された1株に関しては、総数100株のうちの1株分の価値で評価されるかたちになります。原則的評価方式で評価されたとしても、取引実行前の1%相当額の評価で済むわけです。この1株をそのまま相続しても良いでしょうし、生前贈与しても良いでしょう。

このように、完全無議決権株式を活用して配当還元方式による評価を利用することで、多額の非上場株式の承継の税コストを大幅に削減することが可能となります。

完全無議決権株式による節税スキームのデメリット|株主分散と現金化の問題

株主の分散化

完全無議決権株式については、中心的な同族株主以外の人に承継させないと配当還元方式による評価が採用できません。中心的な同族株主に該当する人の範囲は広く、親や子ども、兄弟姉妹などの親族はもちろん、その会社の使用人までも対象に含まれます。

そのため、配当還元方式を適用するためには縁の薄い人に対して株式を承継させなければなりません

完全無議決権ではあるので、役員の選解任や役員報酬の決定には口出しできないものの、会社が解散した際の残余財産の分配請求や、会社に対する株式の買い取り請求、相続発生による株式の分散化、といった様々なリスクを抱えることになります。

「では株式を買い戻そう」となっても、逆に株式を買い戻す際は原則的評価方式で評価されることが多いため、買い戻しコストは多額になります。

税務目的で株式を渡してしまい、その後の事後処理が非常に大変となった、というケースをよく聞くので注意してください。

きし

私個人としてはこの株主の分散化は非常に大きなデメリットであると考えており、完全無議決権株式の活用は推奨しておりません。

株式が現金化できない

上記の設例で見ると、会長は所有する株式の99%は非常に安価な配当還元方式による評価で手放すかたちになります。そうすると、株式がただ手元から離れていくだけで、現金化ができないというデメリットがあります。

役員退職金でまとまった金銭を支給するという方法もありますが、法人税法上の適正額の兼ね合いから、株式価値の満額を支給することが難しいケースも多いです。

一方で、現金を手にしてしまうとそれがまた相続財産になってしまうため、現金化できないことが一概にデメリットであると言えない面もあります。

完全無議決権株式の節税スキームに潜む税務リスク|総則6項と税制改正の可能性

完全無議決権株式は議決権がないことから会社経営に携わることができず、実態としてはその分、株式価値が減少していると考えることはできます。

一方で、残余財産の分配制限などが種類株式の設計として別途設けられていない限りは、会社が解散などしたときに、財産の分配を受ける権利を有しており、一定の株式価値は残っていると考えることもできます。そうすると、配当還元方式による評価は、実態の株式価値よりもかなり低い金額になってしまいます。

また、「資産課税課情報 平成19年3月9日 種類株式の評価について(情報)」においては、種類株式の評価方法の例が3パターンしか例示されておらず、実際に種類株式として設計可能な株式の種類に比べると明らかに例示の数が足りておらず、種類株式の評価に対する国税庁の法整備が遅れていると言わざるを得ません

そのため、今後、完全無議決権株式を活用した節税スキームなどが横行すれば、国税庁もこれを看過できずに、種類株式の評価方法に関して通達などを大幅に改正する可能性もあります。例えば、評価方法の判定については、議決権数ではなく、持株数を採用することも考えられます。

また、最近は非上場株式の評価に対しては、通達の評価方法によらずに課税できる総則6項の適用も目立ってきています

通達を文言通り解釈して配当還元方式による評価を行ったとしても、残余財産の分配請求権などに着目して、純資産価額による評価に置き直されるリスクも増してきています。

完全無議決権株式を利用した取引は、定款変更などを行うだけで比較的簡単に実行できますし、夢のような相続税、贈与税の節税スキームに見えます。また、現在、国税庁が公表している通達などから考えれば明確に誤っている処理でもありません。

しかし、総則6項を乱発している近年の国税庁の姿勢や、税制改正リスクを考えますと、非常に税務リスクが高い取引であると私は感じています

読者の皆様におかれましても、金融機関やコンサルティング会社からお話があった場合には、リスクについて十分に理解した上でご検討ください。

まとめ|完全無議決権株式を提案されたら確認すべきポイント

完全無議決権株式を活用した配当還元方式による株価対策は、現行の税法上は適法であり、原則的評価方式との差額が数百倍から数千倍にもなり得るため、節税効果としては非常にインパクトが大きいスキームです。

しかし、本記事で解説した通り、この手法には以下のような重大なデメリットとリスクがあります。

第一に、配当還元方式を適用するためには、中心的な同族株主以外の者に株式を承継させる必要があり、縁の薄い人物への株式移転は、残余財産分配請求や株式買い取り請求、さらには相続による株式の再分散といったリスクを招きます。一度渡した株式を買い戻す際には原則的評価方式で評価されることが多く、多額のコストが発生する点も見逃せません。

第二に、株式を配当還元方式という非常に安価な評価額で手放すことになるため、オーナーにとっては株式の現金化が困難になるという問題があります。

第三に、国税庁は種類株式の評価に関する法整備が十分とは言えない状況にあり、今後の通達改正によって現在の評価方法が大幅に見直される可能性があります。加えて、近年は財産評価基本通達の総則6項を適用した課税が増加傾向にあり、通達通りに処理したとしても、純資産価額方式への評価の置き直しを受けるリスクが高まっています。

金融機関やコンサルティング会社から完全無議決権株式を活用した株価対策の提案を受けた際は、節税効果の大きさだけに目を向けるのではなく、株主分散のリスク、将来の税制改正リスク、総則6項の適用リスクを十分に理解した上で、慎重に判断されることをお勧めします。判断に迷われる場合は、税理士など専門家にご相談ください。

お気軽にお問い合わせください

マロニエ会計事務所では、「非上場株式の株価対策・事業承継に伴う税務」に関するご相談を積極的にお受けしております。貴社の状況に応じ、以下のような支援が可能です。

  • 自社株評価と株価対策の検討支援
    原則的評価方式による自社株の現状評価を行い、株価引き下げに向けた実行可能な対策をご提案します。
  • 種類株式(無議決権株式等)の導入検討
    完全無議決権株式をはじめとする種類株式の導入メリット・デメリットを整理し、定款変更や株主総会決議を含む実務面の検討を支援します。
  • 配当還元方式の適用可否の判断
    同族株主の判定、中心的な同族株主の判定を行い、配当還元方式が適用可能かどうかを正確に判断します。
  • 総則6項の適用リスクの事前評価
    近年増加している財産評価基本通達の総則6項の適用リスクを事前に洗い出し、税務調査で指摘を受けにくいスキーム設計を支援します。
  • 事業承継全体の税務戦略の策定
    株価対策にとどまらず、贈与税・相続税のシミュレーション、役員退職金の活用、事業承継税制の適用可否まで含めた総合的な承継戦略をご提案します。

貴社の株主構成や事業フェーズに合わせ、最適な株価対策・事業承継プランをご提案します。

きし

「金融機関から無議決権株式の提案を受けたが判断に迷っている」「自社株の評価額が高すぎて相続が心配」「配当還元方式が使えるのか確認したい」といった具体的なご相談はもちろん、「事業承継を考え始めたばかりで、何から手をつければいいかわからない」といった初期段階のご相談も歓迎しております。

初回のご相談やお見積もりも無料で承っておりますので、ぜひお気軽にご連絡ください。

\ 24時間受付しております!/

目次