きしこんにちは。栃木・宇都宮のマロニエ会計事務所です。
日系企業の海外進出先として根強い人気を誇るタイ。
労働人口の多さや親日的な国民性に加え、日本より安価な物価など、多くの魅力があります。
タイ独自の「会計記録責任者(CPD)」制度や、毎月の申告が必要なVAT(付加価値税)など、日本と同じ感覚で運用すると、思わぬ追徴課税や税務調査のリスクに直結しかねません。
そこで本記事では、タイに進出している(または検討中の)日系企業が必ず押さえておくべき、タイの会計・税務の重要な部分に絞って解説していきます。
タイの会計制度:日本との違いと実務のポイント
まず、タイにおける会計制度のポイントを解説していきます。
2つの会計基準(TFRS)と日系企業の選択肢
タイには、2つの会計基準が存在します。
1つは、上場企業などの公的説明責任を有する企業向けの会計基準である「タイ財務報告基準(Thai Financial Reporting Standards、以下TFRS)」です。
もう1つは「公的説明責任を有しない企業向けのタイ財務報告基準(Thai Financial Reporting Standards for Non-Publicly Accountable Entities、以下TFRS for NPAEs)」です。
前者のTFRSは、国際財務報告基準(IFRS)に基づく会計基準です。
後者のTFRS for NPAEsはタイ独自の簡便的な会計基準です。
以降ではTFRS for NPAEs採用企業を念頭に解説していきます。
決算書類と記帳通貨(バーツ・外貨)のルール
| TFRS for NPAEs採用企業 | |
| 作成する決算書類 | 財政状態計算書(貸借対照表) 損益計算書 株主持分変動計算書 財務諸表の注記 |
TFRS for NPAEs採用企業は基本的にはタイバーツでの記帳となります。
一方で、あえて適用するケースはほとんどないと思いますが、TFRS採用企業が採用するようなTAS第21号(機能通貨規定)の選択適用も可能です。TAS21号を適用する場合には、例えば、タイ企業が営業活動を行う主たる経済環境の通貨が米ドルである場合は、タイバーツではなく、米ドルを機能通貨として記帳する必要があります。
また、日本とは異なり、 タイでは非上場企業の場合であっても、毎年、年次報告書を作成し、株主総会による承認を受けた後、商業登記局または各県の商業登記事務所に提出することが求められています。
提出された年次報告書は商業登記局にて入手することができます。
また、以下の商務省事業開発局のウェブサイトでも公開されています。
試しにトヨタ自動車のタイ現地子会社の決算数値を表示してみました。
過去からの決算数値の推移をグラフ化することもでき、日本よりも企業の財務情報の情報公開がだいぶ進んでいる印象です。タイ語と英語のいずれかで閲覧することができます。

任意の決算月設定と日本親会社との連結対応
任意の決算月を設定することが可能です。
実務上は、日本親会社にあわせて3月決算にするケースが多いかと思います。
会計監査と現地会計ソフト(Express、multibook等)の活用
ExpressやCD Organizerといった代表的な現地会計ソフトがあります。
また、グローバル展開している日系企業はmultibook、GLASIAOUSなどのグローバル管理向けの会計ソフトを使用していることもあります。
【注意】全企業が義務となる「法定会計監査」
きしタイ企業はすべて、公認会計士による会計監査を受ける必要があります。
また、BOI(タイ投資委員会)恩典を受けている場合には、BOI用の監査も公認会計士に依頼する必要があります。
毎期、企業から独立した監査人に監査手続き及び監査報告書の作成を依頼する必要があります。
一方で実態としては、会計監査を受ける企業の数に比べて、現地の公認会計士の数が慢性的に不足しており、会計監査機関の長期化や監査の質の低下が問題となっているようです。
日本では上場企業や大企業しか会計監査は義務付けられていないため、注意が必要です。
タイ独自の「会計記録責任者(CPD)」制度とは?
タイの会計法では、以下の2つの担当者を設置することが求められています。
| 会計記録責任者 | 会計記録担当者 |
| 現地のCPDライセンスを保有している必要がある 社内にCPDライセンス保有者を確保できない場合は、現地会計事務所に依頼しCPDライセンスを使用することが一般的 | タイ国内に在住しており、かつ会計学の学士以上の学歴等を有しているなどの要件が必要 選任したら現地税務当局に届出が必要 社内に要件を満たす者を確保できない場合は現地会計事務所に依頼するのが一般的 |
タイへ進出する中小企業は現地で上記のような職員を採用することは難しいため、現地会計事務所にCPDライセンスの名義貸しと記帳代行をセットでアウトソーシングしていることが多いようです。
タイの企業税務:法人税・VAT・BOI優遇措置
次にタイにおける企業税務のポイントを解説していきます。
法人税の仕組みと申告期限(中間申告・確定申告)
基本的には日本の法人税と同じように、会計上の利益から税務上の調整を行って課税所得の計算を行います。そのほか、タイの法人税の特徴を以下で解説します。
法人税率
法人税率は20%となっています。
なお、中小法人の場合には軽減税率の適用もあります。法人地方税はありません。
きし日本よりも法定実効税率は低いです。
また、日本側のタックスヘイブン税制のトリガー税率に抵触することも基本的にはないかと思います。
申告期限
中間申告と確定申告があります。
中間申告については、年度の課税所得の見積額をベースとして算定された法人税額を事業年度開始後6か月を経過した日から2か月以内に申告、納付します。
確定申告については事業年度末から150日以内に行う必要があります。なお、電子申告の場合は158日内になります。
なお、中間申告の見積課税所得が、年度末の確定申告における実際の課税所得額を25%以上下回る場合、税務上の合理的な理由をある場合を除き、中間納税不足額に対して20%の延滞税が課税されます。
繰越欠損金
発生した翌年度から5年間の繰り越しが可能です。
VAT(付加価値税)の実務:還付申請と税務調査のリスク
VATは原則翌月15日の毎月申告、納付になるため、会計担当者はVAT集計に日々追われるかたちになります。
VATの集計だけで1人採用するような場合もあります。
また、VATの課税タイミングは、その取引の
- 発生時
- 対価受取時
- タックスインボイス受領時
のうちのいずれか早いタイミングとなります。
そのため、会計担当者はVATの集計実務の負荷を軽減するために、③のタックスインボイスを受領したタイミングですぐに会計ソフトへ仕訳を入力することが多いです。
また、VAT還付の際には原則として税務調査が入ります。
税務調査ではVAT以外の法人税なども網羅的に調査されるため、VATの還付額よりも法人税の追徴税額の方が多かった、というケースも往々にしてあります。
そのため、仕入VATが売上VATを上回る場合には、一旦その上回るVATは翌月以降に繰越し、翌月以降の売上VATと相殺して、VAT還付申請を回避するということも行われます。
また、仕入VATの控除を行うためにはタックスインボイスの保存が要件となっております。
一方で、タックスインボイスの保存がなくとも、法人税における損金算入は可能となります。
税務調査ではタックスインボイスの保存状況や記載内容が不備なく記載されているか、などの書類、形式面のチェックがメインで行われます。
最大8年間の法人税免税も!BOI(タイ投資委員会)の税制優遇
タイの進出の際の税務で欠かせないのがBOIによる優遇税制です。
BOIは、タイへの投資を促進するためのインセンティブを提供する政府機関で、タイ投資委員会のことを指します。
BOIの認可対象業種が一定の業種に絞られていることや、毎期のBOIの事業報告手続きが手間がかかるといった注意点もありますが、それを補って余りある優遇措置を受けることができます。
タイ進出時にはBOIの認可が受けられる条件を満たしているかどうか、必ず検討しておきたいところです。
タイ現地子会社からの投資回収と移転価格税制
日本企業がタイ現地子会社から投資を回収する際の税務について、パターン別にまとめると以下の通りです。
配当・ロイヤリティ・利息による投資回収の税務比較
| 投資の回収方法 | タイ現地での課税 | 日本での課税 | 実務上のポイント |
| 配当 | 源泉税10% | 要件を満たせば配当の95%が益金不算入 10%の源泉税は損金算入不可。外国税額控除も不可。 | 総会等の決議を経て現地当局に事前通知をすれば配当可能利益の範囲内で配当可能 |
| ロイヤルティ | (無形資産利用の場合:源泉税15%) (技術支援等役務提供の場合:PEなしの場合は課税なし) | 全額収益として課税 源泉税は外国税額控除適用対象 | 役務提供の場合は、その根幹にノウハウ(無形資産)の提供があるとして、税務当局が15%の源泉税を求めてくるケースがある。 契約書等でノウハウと技術分を明確に分けると良い。 |
| 貸付利息 | 源泉税15% | 全額収益として課税 源泉税は外国税額控除適用対象 | 現地での源泉徴収漏れが非常に多い 法令により借入金と資本金のバランスに規制が設けられているため注意>BOI申請企業:借入は資本金の3倍以下 >その他外国企業:借入は資本金の7倍以下 |
配当可能利益などのバランスも見て、かつ、日本側での課税額もシミュレーションして、どの投資回収方法が最適かと検討する必要があります。
また、タイ現地から資金を回収するというよりは、現地の赤字を補填するために日本企業から貸付を行っているケースもあると思います。この場合には、利息を計上せずに免除している場合は、基本的には日本企業側で海外子会社への寄附金として課税されてしまうので、利息の計上も忘れずに行いましょう。
移転価格税制について
タイにも移転価格税制が存在します。ただ、まだタイ税務当局の課税技術は発展していません。しかし、今後外資系企業からの税収を増やす目的で、外資系企業に対する移転価格税制による課税処分が増える可能性は高いです。
まとめ:タイ事業を成功させるための適切な会計・税務管理
タイにおける会計、税務のポイントを解説いたしました。
タイに限らずですが、現地の会計や税務の制度は日本と異なる点が多々あります。日本と同じ感覚で決算書数値や税金の予測をしてしまうと、経営判断を誤る可能性も大いにあります。
現地の会計、税務処理は現地会計事務所に依頼することがほとんどだと思いますので、実務上の細かな処理や手続きまでを理解する必要はありませんが、本記事でご紹介したような重要ポイントは必ず把握して、海外事業の管理を行っていく必要があります。
お気軽にお問い合わせください
マロニエ会計事務所では、「日系企業のタイ進出に伴う会計・税務」に関するご相談を積極的にお受けしております。貴社の状況に応じ、以下のような支援が可能です。
- タイ現地での会計体制の構築支援
現地子会社のほとんどが採用する「TFRS for NPAEs」への対応や、バーツ記帳・外貨記帳の選択など、現地商習慣に合わせた最適な会計フローの構築をサポートします。 - CPDライセンス(会計記録責任者)の確保と記帳代行
タイ独自の制度であるCPDライセンス保持者の選任および現地税務当局への届出を支援し、実務負担の大きい記帳業務を代行します。 - 法人税・VAT(付加価値税)の適正申告と調査対応
日本とは異なる中間申告の不足額ペナルティ対策や、毎月のVAT申告、還付申請時の税務調査リスクを最小限に抑えるためのアドバイスを行います。 - BOI(タイ投資委員会)の優遇税制活用支援
最大8年間の法人税免税など、BOI認可によるインセンティブを最大限に活用するための申請検討や、毎期の事業報告、BOI監査対応をサポートします。 - タイ現地子会社からの投資回収スキームの検討
配当、ロイヤリティ、貸付利息など、日本側での課税関係も含めた投資回収パターンをシミュレーションし、貴社にとって最適な資金還流方法をご提案します。
貴社のタイ進出のフェーズや事業形態に合わせ、最適な会計・税務対応策をご提案します。
きし「現地での会計監査やCPD対応のアウトソーシングを検討したい」「VATの還付調査のリスクを把握したい」「最も効率的な投資回収の方法を知りたい」といった具体的なご相談はもちろん、「タイへの進出を検討し始めたばかりで、日本との違いが不安」といった初期段階のご相談も歓迎しております。
初回のご相談やお見積もりも無料で承っておりますので、ぜひお気軽にご連絡ください。
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