きしこんにちは。栃木・宇都宮のマロニエ会計事務所です。
日系企業の海外進出先として多く選ばれている国として中国があります。
労働生産人口が多いことや急速な経済発展、日本よりも安価な物価などの要因があり、魅力的な進出先国の1つとなっています。栃木県でも中国に進出している企業は多いです。
一方で、近年では地政学的リスクや経済の低迷により、中国から撤退している日系企業も多いかと思います。
そこで今回は、中国に進出している、または進出予定の日系企業の方に向けて、中国現地の会計制度、税務のポイントを重要な部分に絞って解説していきたいと思います。
なお、本記事は令和7年4月1日時点の法令等に基づいて記載しております。
日本と異なる「中国会計制度」の基本
中国における会計制度のポイントを解説していきます。
①「新会計準則」と「旧会計準則」の適用区分
中国では大きく分けて2つの会計基準が存在しています。内容は以下の通りです。
| 新会計準則 | 旧会計準則 |
|---|---|
| 国内上場企業や国有企業、非上場大中型企業は強制適用 ただし、非上場大中型企業に関しては、実務上、運用に地域差がある。 内容は国際税務報告基準(IFRS)とほぼ同等。 | 新会計準則が強制適用されない小規模の非上場企業が採用。 ただし、新会計準則を選択適用することも可能。 1990年代の国際会計基準(IAS)を参考に作成され、制定後改訂が行われていない。 そのため、IFRSとは多くの差異がある。 |
②報告に必要な決算書類一覧
| 作成する決算書類 | 貸借対照表 損益計算書 所有者持分変動表 キャッシュ フロー計算書 財務諸表注記 |
新会計準則では原則として機能通貨は人民元となります。ただし、一定の場合には外国通貨も選択可能です。
旧会計準則では機能通貨に関する定めは特にありません。
③変更不可の「会計期間」ルール(12月末決算)
会計期間は1月1日から12月31日までと会計法で規定されています。
これを変更することはできません。
④中国現地の会計ソフト事情
中国は市や省ごとに財政部があり、財務諸表等の形式が異なることから、都市ごとに会計ソフトが異なると言われたりすることもあります。
また、会計ソフトを使用する場合には管轄の財務局へ届出が必要です。実務上は以下のようなメーカーの会計ソフトが使用されています。
- INSPUR(浪潮)
- KINGDEE(金蝶国際)
- SAP
- ORACLE
中国は毎年のように会計制度の変更があるため、基本的にはそれに対応できる中国系のメーカーのソフトを使用することが多いですが、SAPやORACLEなどのグローバルメーカーのソフトをカスタマイズして使用しているケースも増えているようです。
⑤【重要】全企業に義務付けられる「会計監査」
中国企業はすべて、公認会計士による会計監査を受ける必要があります。
毎期、企業から独立した監査人に監査手続き及び監査報告書の作成を依頼する必要があります。
この会計監査は、日本でいう会計事務所職員による巡回監査のようなレベル感ではなく、監査基準という基準にしたがって厳格に行われるものです。
中国における「企業税務」のリスクと対策
中国における企業税務のポイントを解説していきます
①法人税(企業所得税)の仕組みと申告期限
基本的には日本の法人税と同じように、会計上の利益から税務上の調整を行って課税所得の計算を行います。そのほか、日本の法人税の特徴を以下で解説します。
法人税率
法人税率は25%となっています。なお、一定の要件を満たすハイテク企業等の場合には軽減税率の適用もあります。法人地方税はありません。
きしまた、日本側のタックスヘイブン税制のトリガー税率に抵触することも基本的にはないかと思います。
申告期限
中間申告と確定申告があります。
中間申告については、毎月又は毎四半期の末日から15日以内に申告、納付します。
確定申告については期末日から5か月以内に行う必要があります。
納税専用口座から自動引き落としで納付となります。
繰越欠損金
発生した翌年度から5年間の繰り越しが可能です。
中国独自の「発票(ファーピャオ)主義」とリスク
中国の会計、税務実務の大きな特徴は、発票(中国のタックスインボイス)を中心とした発票主義です。
発票とは政府公認の領収書になります。
発票は、自社に発票発行機を導入し、税務当局から購入した発票に印字するかたちで発行されます。なお、発票の完全電子化も進められています。
まず、2025年の1年間が完全電子化の移行期間として、アナログと電子の発票が併存し、2026年初から完全電子化というスケジュール感で進んでいるようです。
ニセ発票は税務当局の役人の小遣い稼ぎを目的とした不正により、市場に流通しているようです。
中国の税務当局のウェブサイトでニセ発票かどうかを確認することはできるのですが、発票は膨大な量になるので、わざわざ1つ1つの発票を確認することはできません。
また、発票がなければ損金算入できないことから、中国の経理担当者の中には「発票が無ければ仕訳は起票できない」という認識の人も多いです。
そのため、売上や仕入の取引の発生タイミングではなく、代金の支払いや受取時に発票を発行したタイミングで仕訳を起票する発票(現金)主義で仕訳を起票していることも多いです。
中国子会社の試算表を分析する際は発生主義なのか、発票主義なのか、を確認しておく必要があります。
税務調査に直結する「納税信用評価制度」
中国税務当局は中国国内企業をA~Dの4等級に分類しています。これを納税信用評価制度による税務等級といいます。
優良な納税者としてA等級になれば、社名が公表されたり、税務的な奨励措置を受けることができます。一方で評価の低いCやD等級になってしまうと、税務調査や当局による書類審査のプロセスが厳格化されてしまいます。
日本人出張者も課税対象に?「PE認定」リスクへの対策
中国は積極的なPE認定による課税で有名です。
日本から中国へ技術者を派遣したような場合に、その技術者を日本法人のPEとみなして、法人税や増値税を課税するといったことが相次いでいます。
PE認定されると現地会計事務所へのコストや、増値税の負担など、多大な影響が生じてしまいます。
会社清算時における税務調査の実態
近年は中国から撤退する企業も増えており、会社清算が相次いでいるようです。
会社清算時には税務調査(タックスクリアランス)が行われるケースが多く、この税務調査が長期化し、かつ追徴税額も多くなる傾向にあります。
中国政府としては、外資系企業に課税できる最後の機会であるため、過去数年間の税務処理を綿密に調査し、なんとか課税額を増やそうとします。
会社清算時には、この税務調査の期間や見込まれる追徴税額の検討も踏まえて、清算のスケジュールや資金繰りを検討する必要があります。
②日本と異なる「増値税(VAT)」の仕組み
消費税やVATに相当する税金です。
課税期間は事業内容や増値税額によって異なり、管轄の税務当局によって決定されます。ほとんどのケースでは、1か月か四半期が指定されます。
税率は標準税率13%をベースとしつつ、生活必需品等には軽減税率が設けられています。
増値税は、日本の消費税よりも課税範囲が広く、借入の支払利息などにも課税されます。
そして、中国現地で納税した増値税は日本の法人税の外国税額控除の対象にはならないため、純粋に手出しのコストになってしまいます。
きし増値税のコスト把握、削減戦略の立案は中国進出にあたって重要な税務論点の1つです。
③利益回収の方法(配当・ロイヤルティ・貸付)
日本企業が中国現地子会社から投資を回収する際の税務について、パターン別にまとめると以下の通りです。
| 投資の回収方法 | 中国現地での課税 | 日本での課税 | 実務上のポイント |
|---|---|---|---|
| 配当 | 源泉税10% | 要件を満たせば配当の95%が益金不算入 10%の源泉税は損金算入不可。外国税額控除も不可。 | 総会等の決議を経て現地当局に事前通知をすれば配当可能利益の範囲内で配当可能 |
| ロイヤルティ | 増値税6%、源泉税10% | 全額収益としaて課税 源泉税は外国税額控除適用対象 増値税は外国税額控除適用対外 | タックスペアリングクレジットにより源泉税を20%とみなして外国税額控除可能。 |
| 貸付利息 | 増値税6%、源泉税10% | 全額収益として課税 源泉税は外国税額控除適用対象 増値税は外国税額控除適用対外 | 親子ローンは中国外貨管理局での外債登記手続が必要 |
配当について、以前は手続きを踏んでも海外へ送金できないような事例も良く聞きましたが、最近は問題なく送金できるようです。
また、ロイヤルティのタックスペリングクレジットは適用漏れが非常に多いので注意してください。
源泉税10%分を追加で外国税額控除できるというのは他国にはないメリットです。
外国親会社からの借入(親子ローン)については、限度額の規制があるため注意が必要です。
詳細は割愛しますが、「投注差方式」か「マクロプルーデンス方式」という方法により親子ローンの限度額を計算することになります。
また、中国現地から資金を回収するというよりは、現地の赤字を補填するために日本企業から貸付を行っているケースもあると思います。
この場合には、利息を計上せずに免除している場合は、基本的には日本企業側で海外子会社への寄附金として課税されてしまうので、利息の計上も忘れずに行いましょう。
④移転価格税制の動向
中国にも移転価格税制が存在します。数年連続赤字の外資系企業は狙い撃ちで税務調査が実施されているようです。一方で、過去、手荒な調査が横行していたことにより、外資系企業の撤退が相次いだことから、現在は移転価格の税務調査の手を緩めているようです。
まとめ
中国における会計、税務のポイントを解説いたしました。
中国に限らずですが、現地の会計や税務の制度は日本と異なる点が多々あります。日本と同じ感覚で決算書数値や税金の予測をしてしまうと、経営判断を誤る可能性も大いにあります。
現地の会計、税務処理は現地会計事務所に依頼することがほとんどだと思いますので、実務上の細かな処理や手続きまでを理解する必要はありませんが、本記事でご紹介したような重要ポイントは必ず把握して、海外事業の管理を行っていく必要があります。
お気軽にお問い合わせください
マロニエ会計事務所では、「中国現地の会計・税務」に関するご相談を積極的にお受けしております。貴社の状況に応じ、以下のような支援が可能です。
- 中国会計基準への対応・監査連携支援
「新会計準則」や「旧会計準則」といった現地基準の確認や、全企業に義務付けられている会計監査について、現地会計事務所との連携をサポートします。 - 発票(ファーピャオ)管理と納税信用評価への対策
税務リスクの温床となりやすい「発票」の管理体制を見直し、税務調査のリスクを低減させるためのアドバイスを行います。また、納税信用評価(A~D等級)の維持・向上に向けた助言も可能です。 - PE(恒久的施設)認定リスクの診断
日本から中国へ技術者を派遣する際などに発生しやすい「PE認定」による予期せぬ課税リスクを事前に診断し、契約形態や業務フローの適正化を支援します。 - 投資回収スキームの策定(配当・ロイヤルティ等)
現地子会社の利益を日本へ還流させるための最適な方法(配当、ロイヤルティ、親子ローン)を検討し、外国税額控除やタックスヘイブン対策を含めた総合的なプランをご提案します。 - 中国撤退・清算時の税務サポート
事業撤退や会社清算時に行われる厳しい税務調査(タックスクリアランス)を見据え、スケジュール管理や想定される追徴リスクの試算、資金繰りの検討をサポートします。
貴社の中国進出状況や抱えている課題に合わせ、最適な税務対応策をご提案します。
きし「現地法人の試算表が正しいか不安」
「技術者を派遣しているがPE課税が心配」
「撤退を考えているが税金がいくらかかるか知りたい」といった具体的なご相談はもちろん、「中国進出を検討中だが、会計・税務の基礎を知りたい」といった初期段階のご相談も歓迎しております。
初回のご相談やお見積もりも無料で承っておりますので、ぜひお気軽にご連絡ください。
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