こんにちは。栃木・宇都宮のマロニエ会計事務所です。
複数のグループ会社を抱える中小企業において
「自社の業績は好調だが、グループ全体としてはどうなのか分からない」
「銀行や取引先から、グループ全体の数字を見せるように言われるが、そこまで手が回らない」
という課題を抱えているケースが少なくありません。
上場企業では法的に義務付けられた厳密な連結決算が求められますが、中小企業の場合はそこまでの厳密さは必要ありません。
本記事では、「簡易連結」と呼ばれる実践的なアプローチに焦点を当て、中小企業がなぜこれを活用すべきなのか、その具体的な導入手順、注意点、そして導入による実際のメリットを詳しく解説していきます。
グループ会社を複数持つ中小企業の経営者、経理責任者、経営企画担当者の方々が、グループ全体での経営最適化を実現するための指針として、この情報を活用していただければ幸いです。
中小企業における連結会計の活用シーン
「連結」という言葉を聞くと、多くの中小企業経営者は「上場企業のような厳密さは必要ない」「専門家に依頼しないと難しそうだ」と考えがちです。
しかし、グループ会社を複数保有している中小企業であれば、”簡易的”な連結会計の導入だけでも十分なケースが多いです。
管理会計目的の連結活用
連結会計というと、投資家への情報開示や金融庁への報告といった「外部報告」を想像する方が多いかもしれません。しかし、中小企業において特に重要なのは「管理会計としての連結」です。
これは、会社内部の経営判断やコスト管理を効率的に行うための会計手法を指します。
主要な活用メリット
- 経営判断の迅速化:グループ各社の会計を統合的に管理することで、「グループ全体の実質的な利益」をタイムリーに把握できるようになります。各社の業績動向や資金状況を即座に確認できることで、意思決定のスピードが向上します。
- 資金繰りの効率化:個別会社の決算だけでは見えにくい、グループ全体での資金の偏在(ある会社に余剰資金がある一方で、別の会社が借入を行っているような状況)を把握し、最適な資金配分を実現できます。
- 銀行融資での評価向上:金融機関はグループ全体の信用力や財務状況を重視しています。「グループ連結ベースの売上や利益」を提示できることで、経営管理能力や財務基盤の安定性をアピールでき、有利な条件での融資獲得につながります。
これらのメリットは、特に資金調達や経営効率化に課題を感じている中小企業にとって、即効性のある解決策となり得ます。
想定される企業規模とメリット
「連結」の必要性は、必ずしも上場企業や大企業に限定されるものではありません。
年商数億円から数十億円程度、グループ会社が3社から5社程度の規模であっても、導入による十分なメリットが期待できます。
- 中規模企業での有効性:上場企業レベルの厳密な連結手続きは不要であり、導入のハードルは比較的低く設定できます。むしろ、上場企業よりも規模が小さいからこそ、経営者がグループ全体を一元的に管理するための情報基盤として、「簡易連結」が効果的に機能します。
- 少数グループでの活用価値:グループ間取引が存在する場合、それらを連結ベースで把握することで、「実質的な外部売上」や「真の利益水準」が明確になります。また、各社のコスト構造やキャッシュフローの状況も把握しやすくなり、グループ内での連携強化にも寄与します。
このように、企業規模に関わらず、グループ経営の効率化や透明性向上を目指す企業にとって、簡易連結は有効なツールとなります。
簡易連結の作成手順と実践ステップ
簡易連結の導入プロセスは、段階的に進めることができます。
上場企業のような複雑な連結パッケージの作成や、連結子会社・関連会社の厳密な区分けは必要ありません。
まずは損益計算書(PL)の合算と内部取引の相殺から始めることで、グループ全体の損益状況を把握することが可能です。
導入に際して最も重要なのは、「何を目的とするか」「どの程度の正確さを求めるか」を事前に明確にすることです。これにより、不必要な作業を避け、最小限の労力で最大の効果を得ることができます。
基本ステップ:PLの合算から始める
最初のステップとして、各社の損益計算書(PL)を合算する方法から着手します。以下の手順で進めることで、効率的に作業を進められます。
- 会計データの抽出:各社の会計ソフトやシステムから、月次の試算表やPLをCSVやExcel形式で出力します。異なるソフトを使用している場合でも、Excelでの統合は比較的容易です。なお、会社ごとに勘定科目の体系が異なる場合には、Excel上などでグループ統一の勘定科目体系に組み替えることが必要です。
- グループ間取引の管理:補助科目を活用して、グループ会社間の取引を明確に識別できるようにします。取引先ごとに補助科目を設定することで、内部取引の特定と相殺処理が容易になります。
- 内部取引の相殺処理:例えば、A社からB社への商品販売の場合、A社の売上とB社の仕入を相殺します。これにより、「グループ全体の実質的な売上・利益」が明確になります。金銭の貸借に関連する受取利息・支払利息などについても、可能な範囲で相殺処理を行います。
これらの基本的な手順を踏むことで、グループ全体の業績把握の基盤を構築することができます。
正確性の水準設定
簡易連結は、主に中小企業の管理目的や金融機関との交渉資料として活用されるため、完璧な正確性までは求められないのが一般的です。
ただし、導入前に以下のポイントを検討し、必要な精度レベルを設定することが重要です。
- 連結財務諸表との違い:上場企業の連結では、貸借対照表(BS)の資産・負債すべてを対象とし、子会社の在庫や固定資産の評価、非支配株主持分、税効果会計の調整まで行います。一方、中小企業の簡易連結では、PLを中心とした合算と必要に応じた簡易的なBS作成に留めることで、十分な効果を得られます。中小企業は法律で連結財務諸表を作成することは義務付けられていないため、内部管理目的レベルで作成できれば十分です。
- 目的に応じた精度設定:銀行融資用の資料として使用する場合は、ある程度の精度が求められます。一方、社内の経営会議用の参考資料として使用する場合は、多少の誤差を許容しつつ、迅速なレポート作成を優先することも考えられます。
精度レベルの設定は、運用負荷と活用メリットのバランスを考慮しながら決定することが望ましいでしょう。
簡易連結作成の際の留意事項とその対処方法
簡易連結を作成する際には、以下のような事項に留意する必要があります。
- 勘定科目の統一:各社で異なる科目名(例:「地代家賃」と「賃借料」、「支払手数料」と「支払報酬料」など)が使用されている場合、合算時に科目がいたずらに増えてしまい、非常に見づらい資料となってしまいます。科目マスターの統一や、科目の対応表、マッピング表の作成が有効な対策となります。
- 内部取引の把握:連結グループ内部の取引を消去するため、グループ間でどのような内部取引が発生しているかを整理する必要があります。売上や仕入、利息のやり取りなどが典型的な内部取引になります。
簡易連結導入の具体的事例とその効果
実際の導入事例を通じて、簡易連結がグループ経営にもたらす具体的な効果を見ていきましょう。
グループ会社を複数持つ企業において、「全体最適」を実現するための強力なツールとして、簡易連結がどのように機能するのかが理解できるはずです。
製造業グループでの導入事例
年商数十億円規模のA社グループの事例を見てみましょう。
このグループは、製造部門の子会社2社、物流・配送部門の子会社1社、販売会社1社の計4社で構成されていました。
各社の業務が密接に連携している中で、親会社としてはグループ全体の売上・コスト構造を迅速に把握する必要性に迫られていました。
導入前は以下のような課題を抱えていました。
- 各社の試算表を個別に受け取るだけで、合算作業は手作業に依存していた
- 内部取引の確認に時間がかかり、グループ全体の利益把握が後手後手になっていた
この状況を改善するため、親会社の経理部が中心となって、「簡易連結用のExcelテンプレート作成」に着手しました。各社の勘定科目を統一し、補助科目でグループ間取引を記録する仕組みを整備した結果、翌月中にはグループ全体のPL状況を一覧で把握できるようになりました。
導入後の具体的な改善効果
簡易連結の導入により、以下のような具体的な成果が得られました。
- グループ全体の経営実態の早期把握:内部取引を消去した簡易連結を早期に作成することができるようになり、グループ全体の損益状況をタイムリーに把握することができるようになりました。
- 金融機関との関係強化:グループ全体の売上・利益推移を体系的に提示できるようになったことで、「管理体制が整備された企業グループ」として評価され、当初の想定より有利な条件での追加融資を受けることができました。
組織文化の変革効果
簡易連結の導入は、数字の可視化だけでなく、組織全体のコミュニケーションにも良い影響をもたらしました。
具体的には、役員会や経営会議で最初に「連結PL」と「セグメント別の実績」を共有する形式に変更したことで、参加者全員がグループ全体の状況を理解しやすくなりました。
さらに、これまで「自社の利益」にのみ注力していた各社の担当者たちも、グループ全体の収益性やキャッシュフローを意識した発言や提案を行うようになりました。
例えば、「物流コストの増加に対して、販売側で一部負担する仕組みを検討しては」といった建設的な議論が行われるようになっています。
実務における重要ポイント
簡易連結の実際の導入にあたっては、適切なツールの選択と運用方法の確立が重要です。
ここでは、Excelやクラウドサービスの活用方法を中心に、現場で役立つ具体的なポイントを解説します。また、必要に応じた専門家との連携方法についても触れていきます。
効率的なツール活用の方法
中小企業での簡易連結は、既存のツールを効果的に活用することで、比較的少ない投資で始めることができます。
- Excelを活用した連結の仕組み作り:市販のテンプレートや自社開発のExcelシートを使って、月次の合算作業を自動化します。各社から提出される試算表やPLの数字を貼り付けるだけで集計・相殺ができるよう、「共通科目表」「内部取引相殺用のワークシート」「チェックリスト」などを整備しておくことが重要です。
- グループ間取引の管理方法:補助科目や部門コードを活用して、グループ会社間の取引を明確に識別できるようにします。取引先コードを統一することで、同一会社との取引を勘定科目ごとに集計しやすくなります。
- クラウド会計の活用:最近では、複数法人のデータを一元管理できるクラウド会計ソフトも増えています。これらを利用することで、データの更新や共有がリアルタイムで行え、担当者間の連携もスムーズになります。
専門家との効果的な連携
簡易連結とはいえ、導入時には様々な判断が必要になります。公認会計士との連携を通じて、より効果的な導入と運用を実現できます。
- システム選定のアドバイス:連結実務の経験がある専門家は、企業の規模や業種に適したクラウド会計ソフトや連結ツールを提案できます。Excelで作成する場合には合算用の雛型の提案もできます。これにより、試行錯誤のリスクを減らし、効率的な月次連結の仕組みを構築できます。
- スケジュール策定の支援:そもそも簡易連結を従来作成していなかったグループに関しては、何から手を付けたら良いのか見当がつかないということもよくあります。最初の導入時に、連結会計実務に精通した公認会計士へ、導入の進め方やスケジュール設定などの整理を依頼すれば、スムーズに簡易連結の導入が可能になります。
- 将来を見据えた体制整備:将来的なIPOやM&Aを視野に入れている場合、早い段階から連結の基盤を整備しておくことで、スムーズな体制移行が可能になります。
まとめ – 簡易連結による経営革新への道筋
中小企業がグループ会社を持つ場合、「簡易連結」の活用は想像以上の効果をもたらします。
上場企業のような厳密な連結手続きを行わなくても、PLの合算と内部取引の相殺だけで、グループ全体の実態を把握し、経営効率を大きく向上させることができます。
導入に際しては、まず「目的の明確化」と「求める正確性のレベル」を定めることが重要です。
その上で、PLのみの簡易連結から始めるか、BSも含めたより詳細な連結に挑戦するかを選択できます。
グループ会社を持つ中小企業にとって、「簡易連結」は経営最適化への重要なステップとなります。
経営判断の迅速化や銀行取引での信用力向上に加え、社員同士が「グループ全体」を意識して協力する文化が育まれるなど、組織力強化にも大きく貢献します。
本記事で解説した導入手順や実践的なポイントを参考に、ぜひ「簡易連結」の導入を検討してみてください。グループ全体の成長と財務基盤の強化に向けて、確実な一歩を踏み出すことができるはずです。
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