こんにちは。公認会計士・税理士を擁する栃木・宇都宮のマロニエ会計事務所です。
近頃、新収益認識基準や新リース会計基準など、大きな会計基準の改正が相次いでいます。
上場企業やそのグループ企業は期限までにこれらの改正に対応する必要があります。しかし、新会計基準の導入をどのように進めていけば良いのか、途方に暮れている経理担当者も多いのではないかと思います。
そこで今回は新会計基準を導入する際の進め方について、解説していきたいと思います。
新会計基準の導入は全社的なプロジェクト
直近の経済情勢などを反映して、新たな会計基準が作成されたり、既存の会計基準が改正されたりすることがあります。
新たな会計基準が作られると、公認会計士等による監査を受けている会社に関しては、新会計基準に対応した決算書を作成する必要があります。
新会計基準については、基準が公表されてから数年後に強制適用開始時期というものが設定され、当該時期までに新会計基準に対応する必要があります。
新会計基準公表から強制適用開始時期までの間の準備期間に準備を進めていきます。
会計基準の対応ということで、一見すると「経理部だけが頑張れば良い」というような印象を受ける方もいらっしゃいますが、大規模な基準の改正になりますと、グループ全体を巻き込んだプロジェクトで進めていく必要があります。
近年ですと、新収益認識基準や、新リース会計基準は、全社的な対応が必要な基準の改正であるといえるでしょう。
新会計基準導入にあたって取り組むこと
新会計基準の導入にあたって取り組むことを、流れに沿って解説していきます。
(1)新会計基準の概要把握
まずは新会計基準の概要の把握から取り組みます。会計基準を一から読む込むのが確実ですが、特に最近の会計基準はIFRS等の海外の会計基準をベースに作成されていることから、英語を直訳した分かりづらい日本語が多く読みづらいです。
そのため、監査法人のセミナーを受講したり、経理向けの専門誌で概要を把握するのが良いかもしれません。
(2)影響度調査の実施
新会計基準の概要を把握したら、財務数値への影響や、システム改修、業務プロセス変更等の必要性を把握するために、一般的には影響度調査というものを実施します。具体的な進め方は以下の通りです。
①プロジェクトチームの組成
小規模な基準改正ならば経理部だけでも調査が可能ですが、近年の新収益認識基準や新リース会計基準については、経理部が単独で調査を行うのは難しいボリュームです。
したがって、影響度調査は経理部だけではなく、全社的なプロジェクトチームを組成して進めることが望ましいです。
プロジェクトチームの関係部門と役割の例は以下の通りです。
関係部門、担当者 | 役割 |
---|---|
責任者(経理担当取締役等) | 取締役会、投資家等への説明 |
管理者(経理部長等) | プロジェクトマネジメント、他部門、監査法人との折衝等 |
経理部 | 新会計基準の概要把握、調査表作成、結果の収集など |
法務部 | 契約書の洗い出し、読み込み |
情報システム部 | システム改修対応等 |
経営管理部 | 予算、事業計画への影響反映 |
IR、広報部 | 適時開示、投資家等への説明 |
内部監査室 | 内部統制の追加、削除等の対応 |
②調査範囲の決定
調査は連結ベースで行う必要があるため、グループ企業も調査対象となります。
明らかに新会計基準の対象となる取引(リースなど)を行っていないようなグループ企業もあると思います。
③調査票の作成
調査票の作成にあたっては、手戻りや調査漏れが生じないように、事前に把握した新会計基準の概要に基づいて、作成することが重要です。
また、海外にもグループ企業が存在する場合には、英語で調査票を作成するといった配慮も必要になります。
調査票については、後ほど形式的に集計が行いやすくなるように、Excel等で統一のフォーマットを作成するのが良いでしょう。
④調査の実施
作成した調査票をグループ企業にも送付して、調査を実施します。各社においては、業務部門や法務部等にも連携を求めながら、調査票を作成します。
なお、調査票には会計基準の専門的な用語も含まれる可能性があるため、事前にグループ企業の経理部担当者を招集して、説明会を実施することも検討する必要があります。
また、手戻りを防ぐために、調査の実施前に、調査範囲や調査票の項目について、監査人と協議を行っておくことが望ましいです。
⑤影響度調査実施後
影響度調査の結果に基づき、新会計基準導入による影響額を試算し、役員や経営企画部門、監査人等に共有します。また、会計処理の変更が必要となった場合には、その対応のための行動計画を作成します。
単に会計処理を変更するだけではなく、システムの改修、業務プロセスの変更も必要になるケースがあるため、優先順位をつけて各対応項目について行動計画を作成して対応していきます。
(3)会計方針の決定
影響度調査の結果に基づいて、自社はどのような方針で会計処理を行うかの方針を決定します。
決定した方針は、社内の経理規定にも反映します。場合によっては、自社の会計方針についてまとめたポジションペーパーの作成も行います。
(4)システム改修
決定した会計方針に基づいて、システム改修が必要となった場合には、システム改修を実施します。
メインの対応は情報システム部門になるかと思いますが、想定する機能を確実に実装するために、要件定義のフェーズでは積極的に経理部も関わった方が良いでしょう。
(5)J-SOXへの対応
主要な勘定科目に影響を及ぼすような改正の場合には、J-SOX対応も検討する必要があります。
必要に応じて、内部統制の業務記述書への追記や、コントロールの追加を検討します。システムを新規に導入する場合は、IT統制への影響も検討する必要があります。
(6)開示の検討
会計処理だけではなく、注記の作成や、その情報収集のための連結パッケージの改訂も行います。
(7)税務の検討
検討が漏れやすいですが、税務上の影響も検討します。税会不一致で税務調整が必要な場合には、課税所得への影響を検討します。また、税効果会計への影響も検討が必要です。
新会計基準導入にあたって気を付けるべきこと
新会計基準を円滑に導入するためには、特に以下の2点に注意を払う必要があります。
(1)監査人との協議はこまめに行う
会計処理については、最終的には監査人がYesと言わなければ認められません。
そのため、監査人が考える正しい処理とは異なる処理や進め方を採用してしまうと、監査人の了解が得られず、作業の大きな手戻りを発生させてしまうリスクがあります。
(2)スケジュール管理の徹底
新会計基準には強制適用開始時期という期限が定められており、対応の遅れは許されません。
グループの中の1社でも対応が遅れると、連結全体の遅れに繋がるため、スケジュール管理は徹底する必要があります。
子会社側の担当者も、自身の遅れが全体の遅れに繋がるという緊張感を持ちながら、プロジェクトを進めていく必要があります。
まとめ
新会計基準の導入の進め方について解説してきました。
新会計基準の導入は、一見すると経理部門だけの課題のように見えますが、実際には全社的なビッグプロジェクトとなります。スムーズな導入のためには、以下のような体系的なアプローチが必要です。
- 経理、法務、システム、経営管理など、関連部門を巻き込んだプロジェクトチームの組成
- 綿密な影響度調査の実施と分析
- 会計方針の慎重な検討と決定
- 必要に応じたシステム改修の実施
- J-SOX対応や税務上の影響の検討
- 開示要件への適切な対応
また、円滑な導入を実現するためには、監査人との密接なコミュニケーションの維持と、グループ全体でのスケジュール管理の徹底が特に重要となります。
新会計基準は、会社の財務報告の根幹に関わる重要な変更となります。
新会計基準が期限までにスムーズに導入できるよう、本記事が参考になれば幸いです。
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