これだけ読めば分かる!新リース会計基準の概要とその影響(一般の方向け)

きし

こんにちは。新リース会計基準に詳しい、栃木・宇都宮のマロニエ会計事務所です。

近頃、経済誌や新聞等で新リース会計基準という言葉を目にする機会が多いのではないでしょうか。

今までのリース基準とは何が異なり、どのような影響があるのか、気になる方が多いかと思います。

そこで今回は、新リース基準の概要と、その影響について解説していきます。

なお、本記事は、経理担当者向けの実務的な記事というよりは、ビジネスマンや役員、経営層などの一般の方向けに「この記事を見れば新リース会計基準について何となく話せる!」という概要を解説するかたちの記事にしています。

目次

新リース会計基準の概要

2024年9月に公表された新リース会計基準は、公認会計士または監査法人の監査を受ける企業を対象とする新しい会計基準です。

2027年4月1日以後開始する事業年度から強制適用が開始され、リース取引のオンバランス範囲を拡大するなど、従来の基準から大きく変更される重要な改革となっています。

以下では、この新リース会計基準について、適用対象企業、適用開始時期、および旧基準との主な相違点の観点から詳しく説明します。

適用対象企業

新リース会計基準は、公認会計士または監査法人の監査を受ける会社(上場企業やその子会社、負債総額200億円以上又は資本金5億円以上の会社等)が適用対象となります。

そのため、中小企業のほとんどは適用対象にはなりません。

公認会計士の監査を受けていないような中小企業に関しては、従来通りの会計処理を継続すれば問題ありません。

適用開始時期

2027年4月1日以後開始する事業年度の期首から強制適用になります。3月決算の企業ですと、2028年3月期からの強制適用になります。

上記の期間よりも早く、早期適用も可能ですが、ほとんどの企業が強制適用開始時期にあわせて適用を開始するものと思われます。

なお、会計基準や適用指針については、2024年9月に公表済みです。

旧リース会計基準との主な相違点

次に、旧リース会計基準との主な相違点について解説いたします。

リース取引のオンバランスの範囲が拡大する

従来のリース会計基準は、リース資産や負債を貸借対照表に計上(オンバランス)するかどうかの判断にあたって、そのリースが「ファイナンス・リース」か「オペレーティング・リース」か、といった切り口で判定していました。

これが、新リース会計基準になると、「ファイナンス・リース」、「オペレーティング・リース」という概念がなくなります。その取引が「リース」か「非リース」(リースではない)かどうかでオンバランスの判定を行うことになります。

図にまとめると以下の通りです。

旧リース会計基準新リース会計基準
ファイナンス・リースオンバランスリースオンバランス
オペレーティング・リースオフバランス
非リース非リースオフバランス
旧リース会計基準新リース会計基準
ファイナンス・リースオンバランスリースオンバランス
オペレーティング・リースオフバランス
非リース非リースオフバランス

したがって、従来「オペレーティング・リース」としてオフバランス処理(貸借対照表にリース資産、負債を計上せずに、費用処理のみ行う)していたリース取引であっても、リース取引である限りは、基本的にオンバランス処理が求められることになり、オンバランスすべきリース取引の範囲が拡大します。

リースの範囲の拡大

新リース会計基準では、「リース」かどうかを実態で判断することにしています。

そのため、契約書に「リース」と記載されていなくても、実態がリースと判定されれば、リース会計の対象になってしまいます。

例えば、事務所を賃借する「不動産賃貸借契約」や、製造用の金型を使用する「製造業務委託契約」といった契約も、リースとみなされる可能性があります。

リース期間の拡大

旧リース会計基準では、リース期間は契約書に記載された期間に基づいてリース債務が計算されていました。

一方で、新リース会計基準では「解約・延長のオプション」や「オプションを行使する可能性」を確認した上で、リース期間を決定することになります。

そのため、自動更新により契約を「延長」したりする可能性が合理的に確実である場合には、契約書に記載された期間とは異なる期間でリース負債を計算することが必要になります。

取引内容によっては、旧リース会計基準よりもリース期間が増え、それに伴い計上すべきリース債務の金額も増加する可能性があります。

新リース会計基準の導入により変わること

新リース会計基準の導入により、企業の財務報告と経営管理の実務に大きな変更がもたらされます。

従来のオペレーティング・リースのオンバランス化をはじめとする会計処理の変更は、企業の財務諸表の構造や経営指標に重要な影響を与えることが予想されますので、こちらでは新基準導入に伴う具体的な変更点と、それが企業活動に与える影響について詳しく解説していきます。

経営管理指標、財務数値の見え方が変わる

新リース会計基準では、従来費用処理されていたオペレーティング・リースについて、貸借対照表では今まで計上されていなかった「使用権資産」と「リース債務」が計上されるようになります。

損益計算書では、毎月のリース料を「支払リース料」として処理していましたが、新リース会計基準では「減価償却費」と、利息相当部分については「支払利息」を計上するようになります。

財務諸表での数字の表示方法の変化をまとめると以下の通りです。

旧リース会計基準新リース会計基準
貸借対照表貸借対照表
資産の部:負債の部:資産の部:負債の部:
使用権資産リース債務
損益計算書損益計算書
販売費及び一般管理費:販売費及び一般管理費:
支払リース料減価償却費
営業外費用:営業外費用:
支払利息
旧リース会計基準新リース会計基準
貸借対照表貸借対照表
資産の部:負債の部:資産の部:負債の部:
使用権資産リース債務
損益計算書損益計算書
販売費及び一般管理費:販売費及び一般管理費:
支払リース料減価償却費
営業外費用:営業外費用:
支払利息

これにより、貸借対照表の資産や負債が増加したり、損益計算書の段階損益(営業利益、経常利益)の金額が変動することが予想されます。

また、これに伴い、株主や経営層が注目している以下のような経営管理指標にも影響が及びます。

経営管理指標影響解説
営業利益率
(営業利益÷売上高)
良化リース料のうち、利息相当部分は支払利息(営業外費用)に計上されるため、営業利益が増加します
EBITDA
(利息、税金等控除前利益)
良化上記と同様、営業利益の増加により、良化します
ROA
(純損益÷総資産)
悪化オンバランス取引の増加により総資産が膨らみ悪化します
総資産回転率
(売上÷総資産)
悪化オンバランス取引の増加により総資産が膨らみ悪化します
自己資本比率
(自己資本÷総資産)
悪化オンバランス取引の増加により負債が増加するため悪化します
営業CF良化リース料のうち、元本相当部分は財務CFに計上されるため良化します
経営管理指標影響解説
営業利益率
(営業利益÷売上高)
良化リース料のうち、利息相当部分は支払利息(営業外費用)に計上されるため、営業利益が増加します
EBITDA
(利息、税金等控除前利益)
良化上記と同様、営業利益の増加により、良化します
ROA
(純損益÷総資産)
悪化オンバランス取引の増加により総資産が膨らみ悪化します
総資産回転率
(売上÷総資産)
悪化オンバランス取引の増加により総資産が膨らみ悪化します
自己資本比率
(自己資本÷総資産)
悪化オンバランス取引の増加により負債が増加するため悪化します
営業CF良化リース料のうち、元本相当部分は財務CFに計上されるため良化します

例えば、サブリースアパート事業を行っている不動産業や、全国展開している小売業といった会社は、不動産の賃貸借契約が相当数存在すると予想されるため、多額の「使用権資産」と「リース債務」が計上される可能性が高いです。

これらの業種では、新リース会計基準の導入に伴い、ROA等の経営管理指標が悪化し、株主や経営層にネガティブサプライズを与える可能性があります。事前に新リース会計基準導入による影響額を調査し、株主等に丁寧な説明を行うことが必須でしょう。

以下の記事によれば、新リース会計基準のベースとなったIFRS第16号の導入により、小売業では負債総額が10~100%増加したという記載もあります

財務制限条項に抵触する会社が増える可能性

銀行との借入契約に、財務制限条項という条項が入っている場合があります。財務制限条項とは、決算書の数値が予め定められた基準を満たさなかった場合に、利率の引き上げや、融資金額の一括返済が求められる条項のことをいいます。

例えば、以下の銀行の財務制限特約付き融資では、「総債務月商倍率9倍以内」という条件があり、「総債務÷月商」の倍率が条件になっています。債務が増加すると、この9倍以内という条件を満たせなくなってしまうかもしれません。

引用:北日本銀行HPページ「財務制限特約付き融資」より

新リース会計基準の導入によりリース債務の計上が増えたことにより、財務制限条項に抵触し、支払利息の増加や融資の一括返済といった影響が生じることも予想されます。

減損損失の計上額が増える可能性

新リース会計基準では、オペレーティング・リースも基本的には「使用権資産」として資産計上が行われます。そして、「使用権資産」は固定資産になりますので、減損会計の対象になります。

減損会計とは、ある事業などが不採算となってしまった場合に、その事業などに紐づく固定資産の帳簿価額を回収可能な金額まで一気に減額して、減損損失という損失を計上する会計処理です。たまに日経新聞でも、大企業が不採算事業で減損損失を計上したとニュースになりますね。

従来は不採算事業でオペレーティング・リースを契約していても、そもそも資産計上されていなかったので減損損失の計上も行われなかったのですが、新リース会計基準導入後は、減損損失の計上対象となり、減損損失の金額もそれに伴い増加します。

会社法監査の義務化対象になる法人が増える可能性

上場していない会社でも、負債総額が200億円以上の会社は、公認会計士等による会計監査の対象になります。これを会社法監査といいます。

新リース会計基準の導入によりリース債務の残高が増加し、負債総額が200億円以上となってしまうと、会計監査が必須になってしまう可能性があります。

まとめ

ビジネスマンや役員、経営層などの一般の方向けに、新リース会計基準の概要や影響を解説いたしました。

不動産の賃貸借契約なども新リース会計基準の対象になるため、ほぼすべての企業に影響がある会計基準になります。

適用開始時期はまだ先ですが、雑誌等でも話題になり始めてきているため、本記事をご覧いただいて、少しでも新リース会計基準の理解を深めていただければ幸いです。

お気軽にお問い合わせください

マロニエ会計事務所では、上場企業、子会社向けのご相談を幅広くお受けしております。

  • 新リース会計基準の導入対応
  • 連結パッケージ作成のアウトソーシング
  • 税効果会計・引当金などの高度な会計処理支援
  • システム導入サポート
  • マニュアル整備
  • 監査法人との折衝
  • 書類対応のサポート

こうした幅広い支援メニューを取りそろえ、御社の状況に合わせた柔軟なサポートを行います。

まずは「こんなことで悩んでいる」「こういう改善を目指したい」というお気持ちをお聞かせください。

\ 24時間受付しております!/

目次