【速報】令和8年度(2026年)税制改正大綱のポイントを税理士が解説!実務への影響は?

きし

こんにちは。栃木・宇都宮のマロニエ会計事務所です。

令和8年度の与党税制改正大綱が2025年12月19日に公表されました。

この後、与党税制改正大綱をもとに、政府の税制改正大綱の作成や国会での審議が行われますが、基本的には与党税制改正大綱の内容がこのまま採択されると思われます。

多岐にわたる項目の改正案が記載されており、大手の税理士法人から様々な解説記事や動画がアップロードされるかと思います。

きし

改正案の全容についてはそちらの大手のサイトをご参照いただき、本記事では私が個人的に気になった、実務的に幅広く影響が出ると思われる改正案のみを、分野ごとにピックアップして解説していきます!

年収の壁の引き上げなどは多くの場所で紹介されるような内容かと思いますので、本記事では取り扱いません。

※本記事は2025年12月19日に公表された与党税制改正大綱に基づき作成しております。また、与党税制改正大綱の内容がそのまま税法になる保証はないため、実際の税法とは異なる内容となる可能性がある点についてご留意いただけますと幸いです。

目次

【経費・福利厚生】インフレ対応による金額基準の引き上げ

固定資産を購入した際に全額経費に計上できる金額基準や、従業員に対して支給する食事が非課税となるための金額基準がインフレに伴い、以下のように引き上げとなります。

制度現行改正後
中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入特例30万円未満40万円未満
使用者からの食事の支給により受ける経済的利益について所得税が非課税とされる当該食事の支給に係る使用者の負担額の上限月額3,500円月額7,500円
使用者が深夜勤務に伴う夜食の現物支給に代えて支給する金銭について所得税が非課税とされる支給額1回あたり300円以下1回あたり650円以下

【税理士の視点】実態に即した妥当な改正

時代に即した妥当な改正だと思います。

きし

私自身も現行の金額基準の水準には疑問を持っており、税理士会を通じて金額基準引き上げの税制改正の要望を出したこともありました。

毎年、あらゆるものがインフレしている現代において、過去の金額基準がそのままとなっているというのは実態に即していない税制になってしまいます。

例えば、従業員に対する食事支給の会社負担額の上限ですが、現在はどんなに安くてもランチが1,000円以上はする中で、月額3,500円を会社が負担してくれたとしても、大した福利厚生効果はないと思います。

改正後の金額が十分かどうかは別にして、今回、各種税制の金額の上限が引き上げられたのは非常に良いことだと思います。

【法人税】賃上げ促進税制の縮小と廃止の行方

給与等の支給額が前期比で増加した場合に一定の税額控除が受けられる制度(賃上げ促進税制)がありますが、以下のように制度が縮小されます。

  • 全法人(大企業)向けの措置は令和8年3月31日をもって廃止
  • 常時使用する従業員の数が2,000人以下である法人(中堅企業)向けの措置は:

>令和9年3月31日をもって廃止
>令和8年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する事業年度については、次の見直しを行う

  • 原則の税額控除率(10%)が適用できる場合を、継続雇用者給与等支給額の増加割合が4%以上(現行:3%以上)である場合とする
  • 継続雇用者給与等支給額の増加割合が4%以上である場合に税額控除率に15%を加算する措置を、その増加割合が5%以上である場合に税額控除率に5%(その増加割合が6%以上である場合には、15%)を加算する措置とする。
  • 教育訓練費に係る上乗せ措置は廃止する。

・中小企業向けの措置における教育訓練費に係る上乗せ措置は廃止

【税理士の視点】制度の複雑化と実務上の本音

税制改正大綱の前半の基本的考え方の章に縮小の背景が記載されてはいますが、結論としては大企業向け及び中堅企業向けの賃上げ促進税制は廃止となります。

中小企業向けの賃上げ税制は制度自体は残りますが、これも見直しがなされる可能性が示唆されています。また、教育訓練費の上乗せ措置については、廃止となります。

実務上では、賃上げ促進税制があるからといって、積極的に賃上げを行おうという企業はそこまで多くないような印象を受けていました。

また、特に中小企業向けの賃上げ促進税制においては、既存の社員を賃上げしなくとも、追加の社員を採用すればそれだけで賃上げ促進税制を使用できるようなケースも多々あり、制度の趣旨と実際の適用状況が異なるのではないか、と疑問に感じていたところもあります。

さらに計算方法の変更や控除限度超過額の繰越制度の創設など、年々制度が複雑化していることもあり、実務上も処理の誤りを誘発しやすい状況となっています。

きし

税務実務を行う側の人間としては、中小企業向けの賃上げ促進税制も廃止して欲しいと感じています。笑

【消費税】インボイス制度の経過措置見直し|「3割特例」の新設

免税事業者であった個人事業主や法人がインボイス登録をして課税事業者となり消費税の申告を行う場合には、経過措置として、売上の消費税額の2割を納めれば良いとする2割特例という経過措置がありました。

個人事業主向け「3割特例」の創設

2割特例は令和8年9月30日が属する課税期間で終了となりますが、個人事業主のみ、令和9年及び令和10年に含まれる各課税期間については、売上の消費税額の3割を納めれば良いとする3割特例が創設されます

免税事業者からの仕入税額控除の延長

インボイス登録をしていない免税事業者等からの課税仕入については本来仕入税額控除を受けることはできませんが、経過措置により、仕入税額の一定額を控除できる制度があります。これが以下のように期間延長及び控除割合が増加となります。

現行改正後
期間控除割合期間控除割合
令和5年10月1日~令和8年9月30日仕入税額の80%令和5年10月1日~令和8年9月30日仕入税額の80%
令和8年10月1日~令和11年9月30日仕入税額の50%令和8年10月1日~令和10年9月30日仕入税額の70%
  令和10年10月1日~令和12年9月30日仕入税額の50%
  令和12年10月1日~令和13年9月30日仕入税額の30%

【税理士の視点】法人と個人の扱いの差と懸念点

法人については当初の予定通り、2割特例は令和8年9月30日が属する課税期間で終了となります。

一方で、個人事業主だけはその後も3割特例というかたちで消費税額を低く抑えることができます。

これは、法人の場合は新規設立等を繰り返すことによって2割特例を延々と使用できるような状態を作ることも可能であると考えられるため、ブロックされたのだと思います。

きし

ただし、個人事業主だけ3割特例が使用できるというかたちにしてしまうと、実務上は処理の誤りを誘発する要因になってしまいますので、制度をこれ以上複雑化しないで欲しいというのが本音です。

また、免税事業者等からの仕入れに係る仕入税額控除の経過措置について、期間も延長され、控除割合もより段階的に減少していくかたちになりますが、これも非常に分かりづらい制度になってしまいました。

【所得税】富裕層の節税封じ?社債による分離課税スキームの規制

社債の利子を受け取った個人の所得税は、基本的には利子所得の分離課税(所得税+住民税で20.315%の税率)になります。

一方で、これを悪用して総合課税を免れるために、同族会社から給与(総合課税)ではなく社債の利子(分離課税)として収入を得ることで、所得税、住民税の納税を大幅に削減することが可能でした。

これをブロックするために、平成28年1月1日以降は、同族会社が発行した社債の利子で一定のものについては、分離課税ではなく総合課税として課税する税制改正が行われました。

しかし、さらにこの網目を搔い潜って、同族会社ではなく、第三者の会社同士でお互いに社債を発行し合い利子を得ることで、上記の税制改正の影響を受けずに社債の利子を分離課税化していた事例が多くありました。

そこで今回、同族会社の役員等が、その同族会社以外の法人が発行した社債の利子で、実質的にその同族会社から支払いを受けるものと認められる場合における利子を、総合課税とする改正が行われます

【税理士の視点】「クロス私募債スキーム」ブロックの背景

俗にクロス私募債スキームと言われるものがブロックされました。

社債を第三者間の会社同士で発行し合い、所得を分離課税とするスキームは、所得税率が高い高所得者の人ほど節税効果が高いスキームです。総合課税の場合は所得税と住民税を足した最高税率が55%になるところ、分離課税にすれば20.315%の税率で済むためです。

しかし、まさに税法のグレーゾーンを突いたようなスキームであり、いずれは税制改正でブロックされるのではないかと感じていたので妥当な改正だと思います。

きし

なお、最近もあるアパレル通販サイト創業者がこれと類似するスキームを採用して税務調査があったという記事が話題を呼んでいました。国も流石にこの現状を看過できなくなったのでしょう。

【事業承継】特例承継計画の提出期限が1年半延長へ

特例版事業承継税制を適用するために必要となる特例承継計画の提出期限が、以下の通り1年6ヶ月延長となります。

現行改正後
特例承継計画の提出期限2026年3月31日2027年9月30日

【税理士の視点】適用期限は延長なし!駆け込み提出への注意点

あくまで延長になったのは「特例承継計画の提出」期限のみです。特例版事業承継税制を贈与や相続によって適用するための期限は、従来通り2027年12月31日のままとなっているため注意が必要です。

きし

個人的には特例版事業承継税制の制度は恒久化しても良いように思いますが、国は制度の延長に対してかなり慎重な姿勢が見受けられます。

【相続税】タワマン節税・不動産小口化商品の評価方法見直し

賃貸用不動産の相続税評価について以下のような改正があります。

令和9年1月1日以後に相続等により取得する評価から適用となります。

①被相続人等が課税時期前5年以内に新築もしくは購入した一定の賃貸用不動産については、通常の取引価額に相当する金額によって評価します。通常の取引価額に相当する金額については、基本的には、取得価額に課税時期までの相場変動を加味した金額の80%相当額によって評価することになります。

なお、被相続人等が課税時期の5年前から所有している土地に新築をした家屋については、本改正は適用されず、通常の相続税評価(家屋の固定資産税評価額等を用いる)を行うかたちとなります。

②信託受益権等の目的となっている賃貸用不動産については、その取得時期に関わらず、課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価します。通常の取引価額に相当する金額については、基本的には信託受益権等を運営する事業者等が示す適正な時価によることとし、それが難しい場合には、上記①の方法に準じて評価します。

【税理士の視点】駆け込み対策への牽制と小口化商品への厳しいメス

相続税の節税のために行われるタワマンや不動産小口商品の取得に大きなメスが入ったかたちです。

タワマン等の一般的な賃貸用不動産については、最低でも5年超は保有しないと相続税の節税効果が大きく薄れるかたちになりそうです。

なお、面白いのが、地主等が5年以上所有していた土地にアパートなどの家屋を新築した場合には、従来通りの相続税評価が認められている点です。相続直前の駆け込みの対策は絶対に認めないという国からのメッセージでしょう。

また、不動産小口商品に代表される信託受益権等の目的となっている賃貸用不動産についてはさらに厳しく、取得時期に関わらず、通常の取引価額に相当する金額による評価が求められます。

不動産小口商品を5年超所有していても関係なしです。不動産小口商品は純粋に投資として儲かるようなものもありますが、それ以上に相続税対策のニーズが非常に強く、販売業者も営業トークで相続税対策のメリットを強く推していたことから、国は看過できなくなったのでしょう。

きし

不動産小口商品の販売をメインの事業として取り扱っている会社もあり、それらの会社の今後の業績が気になるところです。

まとめ:令和8年度税制改正は「適正化」がテーマ

令和8年度の与党税制改正大綱について、私が個人的に実務上気になる項目のみをピックアップして解説いたしました。

きし

今回の改正内容ですが、総じて必要な分野に適切な改正が行われている印象を受けました。

賃貸不動産の相続税評価の見直しについては思い切った感じを受けましたが、改正内容としては非常に合理的だと思います。高市政権の実直な仕事人気質が表れている改正内容だったかもしれません。

個人的に気になっていた非上場株式の評価方法の見直しについては明文化がありませんでしたが、来年度の大綱で出て来そうな気がします。 最新の税制や今後の税制の動向については、ぜひ専門家である税理士にご相談することをおすすめいたします。

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